キミが1度でも多く笑えますように。 幸せだった、楽しかったと微笑んで1日を終えますように。 それが、俺のささやかな願い Love Ya京子ちゃんも呼んできます、そういって三浦が部屋を出て行った後俺の頭の中で再びさっきの莉奈の声が繰り返される。 『もう…もう無理』 俺は莉奈のあんなに悲しそうな声を今までに聞いたことがない。どうして、彼女…莉奈の身に一体なにが起きているんだ? 考えてもきっと答えは出ない。その答えを知っているのは笹川と三浦の2人だけ。 カチカチと響く無機質な秒針が刻むその1秒をやけに長く感じる。 イライラしながらタバコに火をつけたその時、2人が部屋へとやってきた。 ************************ 「さっきも言いましたけど、このことは絶対に他の人には言わないで下さいね。」 再度念を押すように三浦は俺をみながらそう口にした。 「おう。絶対に言わねぇから。…で、アイツに何があったんだ?」 俺の問い掛けに2人はじっと見つめあい、少しの沈黙のあとゆっくりと頷いた。 「あのね、莉奈ちゃん彼氏がいるの。」 切り出したのは意外にも笹川だった。 笹川の話によると、半年ほど前に莉奈に彼氏ができたらしい。とても優しくて素敵な人、と莉奈は2人に自慢していたそうだ。 そして実際あってみたけど、本当に優しそうで誠実そうなヤツに見えた…らしい。 「でも、ハルたちは人を見る目がなかったみたいです…」 それから少し経ったある日、偶然駅前で莉奈を見かけたとき彼女は夏にも関わらず長袖のカーディガンを着ていてソレを不思議に思った三浦が問い詰めてみたが、彼女は曖昧に笑うだけだった。 「その話をね聞いて私も不思議に思って電話してみたんだけど…」 今まで3日に一回位の頻度で届いていたメールが莉奈から来なくなり、電話をしてもなかなか出ないし折り返し掛かってもこなくなったそうだ。 「だから、ハルは莉奈ちゃんの会社まで会いに行ったんです。」 スカートの裾をぎゅっと握りしめながら今にも泣き出しそうな表情をみせた後、「そしたら…その…」と今度は俯く。 「あのね、その…莉奈ちゃんの彼氏さんは…」俯いたまま何も言わなくなった三浦の替わりに今度は笹川が話し出しとうとう真実を口にしたのだった。 「DVって言うのかな?…普段は穏やかな人らしいんだけど、急に怒り出しちゃうらしくってそうすると手がつけられないんだって。」 どういうことだ?DV?…彼氏が暴力を振るう? 「なんでアイツは、それでも別れないんだ?」 「あのね…怖いって言ってた。」 「怖い?」 俺の問い掛けに2人は頷く。 「最初は怒らせるようなことを言った自分が悪いと思ってたんだって。正気に戻るって言うのかな…?その、ある程度時間が経つと彼氏さんは正気に戻って何度も何度も泣きながら謝るんだって。」 「だけど、ある日ですね…」 別れようと告げたら、殺されそうになった。 『お姉ちゃん、私あの人と別れるときは自分が死ぬときしかありえないのかな…??』 小刻みにカラダを震わせ、声も上げずに静かに泣く莉奈ちゃんにハルは抱きしめてあげることしかできなくて…本当に自分の無力さが恥ずかしくて…と、三浦が泣き出した。 「ねぇ、獄寺くん?私達どうしたらいいのかな?」 縋りつくような視線を俺に向ける2人。 何が出来るって言うんだ? 俺がその男をどうにかすることは簡単だ。だけど、莉奈はそれを望むのか? 女に手をあげる男は最低だ。それは許せることじゃねぇ。 「…許せねえ…」 俺は幸せを願って彼女の傍にいることを諦めたのに…こんな未来を望んでいたワケじゃねーのに。 *********************** 三浦と笹川がいなくなった部屋の中、独りきりでさっきの話を思い出す。 頭の中に浮かぶのは、見たこともないアイツの泣き顔。 「幸せだって報告だったらよかったのにな…」 もしそうであれば、感じるであろう胸の痛みに気付かないフリをして「よかったじゃねーか」と笑ってやれるのに。 「どうしてなんだよ…」 …俺はどうしたらいい?オマエはどうして欲しい? 俺は傍に居れなくてもいいから、どうやったらオマエは笑っていられる? どうしたら、幸せだって言ってくれるんだ? ため息をこぼしながらソファーに寝転がると窓越しに見える青空。 「…何をしてやれるだろうな?」 こんな風に1人の女の事に俺が思い悩んでいるなんて雲雀辺りに知られたら鼻で笑われるんだろうな。 お優しい10代目はきっと一緒に悩んでくださるだろう。 だけど、人に話す訳にはいかねぇ。それにこれは俺個人の問題だ。 誰にも言わず密かに解決できる方法、それだけを考えながら俺は何処までも続いているような空を見上げるだけだった。 |