世界の何処かでキミが幸せでありますように。

そう思っていた。

LoveYa



昼下がりのボンゴレアジトに響く、マフィアのアジトに似つかわしくない柔らかい女性特有の笑い声。

この声の持ち主を俺は知っている。

1人は笹川京子。そしてもう1人は、莉奈が姉と慕う三浦ハルのものだ。2人がイタリアに遊びに来るということは1週間程前に10代目から伺っていたが今日だったのか…

以前は莉奈も一緒に来ていたらしい。
らしい、というのは生憎俺はその時任務でいなかったのでよく知らないのだ。
10代目や山本の話によると観光するだけして、食べたいものを好きなだけ食べて、トランクが閉まらなくて三浦に泣きつく位のお土産を買って帰っていたらしい。

その姿はどれも想像できて、どれもアイツらしい。その話を聞いた時には、用意に全てが想像できて思わず笑ってしまったくらいだった。

「せっかく居るんだから、顔くらい出せばいいのによ。」

ベッドに寝転がり、小さくため息をついて見慣れた天井を見上げる。

もう少ししたら、笹川や三浦が居るであろう応接室に顔を出そう。そう思いながら、軽く瞳を閉じた。



******************


「…きて下さい!!起きてくださいよー!!」

ユサユサなんて生易しいモノではなく、ガシガシと揺らされる体。
ぼんやりと瞳を開くとそこには、三浦の顔が映る。

「うわっ!!何しに来たんだ!!」

「何しにって…ツナさんに頼まれて起こしに来たんです。せっかくハルと京子ちゃんが遊びに来たのに獄寺さん寝てるんですもん!!」

久しぶりの再会ですよー!!と笑う三浦。

「あぁ…ちょっとしたら行こうと思ってたのに寝ちまったみたいで…悪りぃ。」

「お疲れだったらいいんです。…それにしても獄寺さん。懐かしい写真飾ってるですね!!」

獄寺さんにそんな一面があるなんて意外です!!ハルは感激しました!!とかなんとかいいながら、アイツが指差すのは高校最後のあの日…並盛を発つ前に撮った写真。

「懐かしいですねー。あの頃はいつも皆でわいわいやってましたもんね〜。」

「おう…それより、俺を呼びに来たんだろ?」

どうしてこの写真を飾っているのかなんて、三浦にはもちろん分らないだろう。
でもこれ以上あの写真に触れて欲しくない、そう思い俺はとっさに話題をそらしたのだった。

「あっ、そうでした!!お食事だそうです!!」

うっかりしてました、と笑う三浦の頭を『やっぱりオマエはアホだな』と軽く叩き彼女とともに、部屋を後にしたのだった。


*****************

皆の笑い声と笑顔が溢れる食堂の話題は、今日のゲストでもある三浦と笹川京子の近況報告。

笹川は某企業の事務、三浦は幼稚園の先生をしているらしい。

「それにしても…残念だったね。莉奈ちゃんは来れなかったんでしょ?」

何気なく切り出したであろう、10代目の発言に俺の心臓が一度だけドクっと脈を打つ。

「うん…あのね・・・「莉奈ちゃんは最近お仕事が忙しいみたいなんですよ!!ねっ?京子ちゃん!!」

「あっ、うん。そうなんだ。」

何かを言おうとした、笹川の言葉を遮り早口で莉奈が来れなかった理由を話す三浦。誰がどう見たって怪しいのは一目瞭然だ。

だけど、三浦の目は『これ以上聞いても何も話しません』といわんばかりの強い意思が宿っていて、それ以上を口にするのはなんだかいけないことの様な雰囲気に包まれる。

「そっか!!忙しいならしょうがないのな!」

何も分かってないのか、それともわざとなのかは分からないが山本の発したその言葉に場の空気が和らぎ、10代目も『仕事だったらしょうがないよね』と少し残念そうに微笑まれた。


一体何があったんだ?来れない理由なんて俺にはわからないし、想像もつかない。

それはアイツを妹のようにかわいがる三浦が隠したいほどの事。それだけは分かった。

知りたい、だが知ったところで俺に何ができるというんだろう?

(…身を引いた理由はソコにあるのに。)


***********

あれから数日。三浦と笹川はどこかに出掛けたりアジトで懐かしい面々といろんな話をしたりと、イタリアでの日々をそれなりに楽しんでいるようだった。

何度も笹川や三浦と顔をあわせる機会はあったが、莉奈のコトについては一度も触れていない。もちろん向こうからその話題を振ってもこない。

(聞いたところで本当の答えが返ってこないのは分かっているし…どうすりゃいいんだ、俺?!)

静かな談話室。居るのは俺と三浦の2人という絶好の機会ではあるけれど…切り出すタイミングも分からない。こんな時山本だったら何の脈略もなく『莉奈はどうしてこれなかったんだ?』なんて聞き出せるんだろう。ちょっとだけあいつが羨ましいぜ。

明日お土産を買いに行く予定なのか、ガイドブックを見ながらペンでチェックを入れている三浦をチラ見しつつ俺は頭の中で考えこんでいたその時、ピリリリという無機質な音が部屋に響く。

「あっ、ごめんなさい!ハルの携帯です!」

そう言って、三浦はいつもの明るい調子で電話に出た。

「もしもし…?えっ…??どうしたんですか??なんで泣いてるんですか??」

どうやら電話の向こうの相手は泣いているらしい。こっちが昼ってことは日本は夜中だ。こんな夜中に泣きながら電話してくるヤツなんて一体…

「えっ?どういうことですか??…莉奈ちゃん」

どうせ下らないことで泣きながら電話してきたんだろうと思いながら呆れていた俺の耳に飛び込んできたのはアイツの名前で、思わず三浦の携帯を奪い取る。

「おい!!莉奈?!」

「…獄寺くん??…もう…もうイヤだよ…」

か細い声の呟きが聞こえた後、電話は不自然に切れた。

「おい!?…切れてるのかよ?!」

通話終了と表示された携帯画面を呆然と見つめた後に三浦を見ると…ものすごく悲しそうな瞳でこちらを見ていた。

「なぁ…三浦。莉奈に一体何があったんだ?」

もうイヤって、一体どういうイミなんだ?

奪い取った携帯を返しながらそう尋ねると、少しの沈黙の後ゆっくりと彼女は口を開いた。

「今からハルが話すことは誰にも言わないと約束できますか?」と。

俺はその言葉にゆっくりと頷いた。


(俺はただ彼女の幸せ、それだけを願っていたのに。)





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