04







―――あれから暫く、アルバ相手に刀を抜いていたが、一太刀も、掠りすらしなかった。
結局、武田のおっさんが止めたことで終わったが、アルバは息ひとつ乱していない。……何なんだ、コイツ。


「伊達ちゃんも片小さんも怖いんだけど!俺死んじゃうって」

「平然と言われても嫌みにしか聞こえねえな」

「いや、だって人間は専門外だし怖いよ本気で」


小十郎の凄みにもけらけらと笑って躱すだけ。コイツ、いろんな意味で大物なんじゃねえか?
それで、本題に入っても良い?入るよー。なんて言うアルバは自由奔放を具現化したような奴だと思う。何なんだ、Hunterってのはみんなそうなのか?


「俺を呼んだって事は、何かしらモンスター……えーっと、怪物?そうは言いたくないんだけど……まあいいや、人や動物ならざる"イキモノ"がいるんだろ?どんなん?」


ニコニコと笑いながらも、微かに雰囲気が変わった。言うなれば、狩人らしい感じだ。
小十郎と一瞬顔を見合わせて、口を開く。


「俺ん所には青いヤツだ。でかいのが一匹と、周りに小さいのがワラワラ居やがる」

「あー、多分それバギィ達だわ。眠狗竜・ドスバギィ。あいつらが吐くの当たると寝るから気ィつけて。めんどくせーなーあいつらウザいんだよなー」


Item boxと言っていた箱の上に座ったまま、アルバは頬杖を付いた。本気で面倒だと思ってるらしい、むすっとしたような表情を晒してる。
他は?と小さく漏らしたとき、それは見事に無くなっていたが。


「わたくしのところでは、おおきなくまのような……ですが、みみはくろく、うさぎのようでした」

「それはあれっスね、白兎獣・ウルクススです。でっかい音で怯むんで、うまく使って下さい。ただし、怒ってる時には怯まないんで即刻逃げるコト。あれっスか謙信様、雪が多い場所なんですか?」

「ええ、そのとおりです」


これには最初驚いたが、それに気付いたらしいアルバに、モンスターの生態考えれば予測付くからさ、と事もなげに返された。ちょっと不敵な笑みがうぜぇ。


「あとは?無い?」

「真田の旦那が見たって言ってなかったっけ?」

「某でごさるか?……おお、あの大きい蜥蜴のようなヤツのことか!」


真田が"蜥蜴"、と言った瞬間、アルバの顔付きが、ハッキリと変わった。
細められた眼と、引き締められた口元。あまりの変わり様に、俺達も思わず身構える。


「なあ幸ちゃん。そいつさあ……牙長かったとか、身体の色とか、何か他に覚えてない?流石にトカゲみたい、だけじゃ絞り込めないんだけど」

「牙は長くなかったでござる。色は……そういえば、橙色と水色の縞模様でござった!」


そう言った瞬間、アルバはItem Boxから下りて、徐にそれを開けた。ガチャガチャと金属の当たる音が、やたらと耳に留まる。


「アルバ殿、どう―――」

「今すぐソイツ狩りに行く。放っておくには危険過ぎる」


俺達に背を向けたまま、僅かに視線を寄越して、すぐに逸らされた。
Boxから出されたのは、折られた青い"何か"。腰に付けられたモノの中に矢があるのを見ると、恐らくは弓なんだろう。


「アルバよ、そんなにそれは危ないのか?」

「そうスね。幸ちゃんの言った特徴だとしたら、そいつは―――轟竜・ティガレックス。飛竜種だけど飛ぶのは苦手、代わりにスゲェ速さで走るんスよ。キレると俊敏性が増して、本気で手が付けられなくなる。……やっべ忘れてた。おーい、マサムネー」

「Ah?!テメェ急に何言っ」

「ニャー!」

「な、何だ急に?!」


名前を呼ばれたかと思えば、猫が地面から出て来やがった。驚いてる前田や絶句してる猿飛を気にも留めず、猫はアルバの方へ走っていく。
……良く見りゃあの猫、何か付けてる上に武器背負ってるじゃねえか。


「ティガ狩るよ。武器これな」

「おいテメェ、猫相手に何し」

「ニャッ!お前、旦那さんとボクを馬鹿にしてるにゃ?!」


小十郎の言葉を遮ったのは、アルバじゃなく―――その、猫の方だった。てーか、俺といい小十郎といい、途中で言葉切られすぎじゃねえか?
俺達の目の前まで来て、普通の猫でいうところの後ろ足二本で立ち上がり、何倍もある俺達を睨みつけていた。


「な、なんなんだこの猫は!」

「マサムネ、喧嘩売らない!ゴメンかすがちゃん、大丈夫だから武器仕舞ってもらっていい?」


へたりと眉を下げて謝るアルバに、上杉の忍はゆっくり武器を下ろした。
マサムネ、と呼ばれた猫は、猫らしく四本足でアルバの元に駆けていく。


「この子はオトモのマサムネ。アイルーっていう獣人族でね、雇って狩りのお供してもらうわけ。有能だし可愛いだろやらねーぞ」

「俺様達、誰も欲しいなんて言ってないんだけど」

「ツッコミ自重マジ自重。爆ぜろ猿助」

「だから俺様の扱い酷すぎるんだけど!」


通常運転だから無理、とアルバが不敵に笑う。猿飛も律儀に言わなきゃ、そう反撃くらうこともないだろうに。
マサムネ、と呼ばれた猫は、甲冑に似た青いモノを身につけて、青い剣を背負っている。
俺の視線に気付いたのか、とてとてと俺の近くに寄ってきた。


「ボクに何か用にゃ?」

「Ahー…お前、マサムネって名前なのか?」

「そうにゃ!旦那さんがつけてくれたにゃ!」


えっへん、と威張るように肯定を返された、不思議なことに、嫌悪感は全くねぇ。多分それは、威張ってるとかそういうことじゃねえ、コイツが純粋に、"誇り"を持っている事の現れだからだろう。
だが、その瞬間―――耳をつんざく様な、デケェ咆哮が響き渡った。アルバが小さく、舌打ち。


「マサムネ、彼等の傍に居て。必要があれば説明、オケ?」

「オッケーにゃ!旦那さん、気をつけてにゃ」

「あんがと。……さぁて、ひと狩りいきますか!」


にっ、と笑って、アルバは陣から飛び出していった。
また響き渡った咆哮は、さっきよりもずっと、でかく聞こえる。だが、妙な安心感が、ソレを掻き消していた。



120604
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