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訳の分からないことを言いながら、へらへらと笑う狩人―――アルバ。どうも俺には、こいつが腕の良い狩人には見えない。 視線を感じたのか、どうかしたー?と間の抜けた声で問い掛けてくるアルバには、何でもない、と言い捨てておく。
「何ですかもふ成ツンデレですかコノヤロー。俺にそれやったって萌えないしやるだけ無駄よ?世のお姉様方は喜ぶかもしれないけどね!」
「訳の分からない事ばかり言う暇があるなら仕事をしたらどうだ」
「モンスター出てないのに仕事なんかありませーん」
してやったり、と笑うアルバの頭を思いっ切りぶっ叩いた。 痛いなあ、と言っているアルバの表情は、へらへらと笑ったまま。コイツの本心は、分からない。よく笑って、大袈裟に驚いてみせるくせに、その奥の本心を垣間見ることすら出来ないのだ。 胸中で小さく舌打ちしたとき、そういやあよお、と、正則が言葉を紡いだ。
「アルバの使ってたあの青いやつ、めっちゃイカしてたな!ありゃあ何なんだ?」
「ああ、アレ?狩猟笛だよ!ちょっと持ってくるわー」
待ってて!と言うが否や、アルバは走って何処かに向かった。恐らく、あのでかい箱の所だろう。止める間もなかった。 アルバは直ぐに戻ってきた。言葉通り、あの青い鈍器を背に担いで。
「リーさんコレでしょ?かりかりぴー」
「狩猟笛じゃないのか?」
「だからかりかりぴーなんだよ。キヨってば頭固いなあ」
そういって、アルバはけたけたと笑う。どうやら、言葉遊びらしい。 小石を拾うと、アルバは地面に字を書きはじめた。お世辞にも上手、とは言えないが、一応読める字はしている。
「狩猟笛ってこうじゃん?んで、読み方変えると、狩がかり、猟もかり、笛だからぴー。ホラかりかりぴー!」
「お、おう……?」
「……アルバ、お前馬鹿だろ」
「キヨー、言っておくけど、これ考えたの俺じゃないからね?」
ハンターの間で発生した愛称だよ、と、アルバは笑ってみせた。屈託のないその笑顔は、子供のようでありながら、何処か陰りを含んでいる。この乱世でさえ、こんな人間は見たことがない。 それを問おうと口を開いたとき、アルバの眼が鋭くなった。睨むように虚空を見つける紅の瞳は、獣を彷彿させる。
「……マサムネ、いる?」
「ここにいるにゃ、旦那さん」
アルバの言葉に反応しつつ、地面から出て来たのはあの猫だった。猫というと怒るのだが、どうみても猫にしか見えない。 猫はふるふると身を震わせて土を落とすと、じっとアルバを見上げた。アルバは視線だけ向けると、再び虚空を睨む。
「俺、ちょっくら行ってくるわ。もふ成達のことヨロシク」
「はいですにゃ。気をつけてにゃ、旦那さん」
「ん。さぁて、一狩り行きますか」
俺達が口を挟む余地も無いくらい、真剣に言葉を交わして、アルバは走っていった。狩猟笛というらしい、あの蒼い鈍器を持って。 残されたのは俺達と、マサムネと呼ばれたあの猫。
「おい、猫。あの男はどうしたというのだ」
「ボクは猫じゃないにゃ、アイルーにゃ!マサムネって名前もあるにゃ!」
「……なあマサムネ、アルバは何処に行ったんだ?」
予想通り、怒って俺を威嚇する猫に、呆れ顔の清正が問い掛けた。こっちを見るな、猫には猫で十分なのだよ。 猫はしばらく俺を睨んでいたが、清正の方に向き直ると、狩りに出たにゃ、と短く答えた。正則が、大袈裟に顔を歪める。
「はあ?狩りに?アルバ一人でェ?」
「そうにゃ。旦那さんは強いにゃ、一人でも全く問題無いにゃ。だから行こうとか思わないことにゃ」
じろり、と睨まれて、正則は少し気圧されていた。猫相手に情けないのだよ、馬鹿が。 その瞬間、地面が揺れ、鳥が一斉に飛び立った。立っていられない訳ではないが、それなりに揺れている。だが、地震にしては、揺れが続かない。
「……おい、猫。まさかこれが、怪物の仕業とでも言うのか?」
「だからボクはマサムネにゃ!恐らくそうにゃ。旦那さんが狩ってるにゃ」
猫はさも当たり前のように言葉を紡いだ。恐らくそう?なら、どうしてアルバは俺達に何も言わなかった。 清正と正則に目配せをして、アルバの走っていったへ、俺達も走り出す。
「ま、待つにゃー!!お前達が行っても無駄にゃあ!!」
猫の声は、聞こえなかった事にしておいた。
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