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「いやぁ、やっぱりカッコ可愛いね俺のジンオウガは!暫く戯れてたい!……此処渓流じゃないから無理だよなあナンテコッタ。しかも討伐のみとか悲しすぎるんだけど。これはあれか、お前を殺して俺も死ぬ!みたいなヤンデレ発動させればオケな感じ?でも自殺は出来ないなあ俺チキンだし。ねえ片小さーんどうしよう悩みが尽きないよたっけてー!」

「知るか!テメェは真面目にやりやがれ!」


つれないなあ、と笑うアルバに緊張感は皆無。小十郎の鬼の形相にも怯んだりはしない。勿論、その背後にはMonsterが攻撃してきている。
最初に見た、ティガレックスとやらほどじゃねえが、それでも人間よりは何倍もでかい。
まるで犬がお手をするような動作を前転で避け、振り向き様に頭に一発。あの手腕は、認めざるを得ねえ。


「Hey,マサ。ありゃあなんてMonsterだ?」

「《無双の狩人》、雷狼竜・ジンオウガにゃ。旦那さんはジンオウガが大好きなんだにゃー」


狩るべきMonsterを好きって、どんな神経してんだよアルバは。信じらんねえ。
そうこう言っている内に、耳に痛い咆哮が響いた。ぱしり、と、そのMonsterの背からは火花が散る。まるで、俺や小十郎が使う雷属性と同じような、青いThunder。
ぎょっとする俺と小十郎とは裏腹に、アルバはにんまりと笑った。


「超帯電状態キタコレ!ひゃっほう腹部の肉質軟化!愛してるからこそ苦しまないようにフルボッコしてやんよ!」

「……もう何も言わねえ」

「それが懸命ですな」


呆れを通り越して、いっそ称賛したいLevelだ。その思考回路も、……不本意ながらその腕も。
避けて、攻撃後の僅かな隙をついて反撃する。それは頭だったり、尻尾だったりと様々だが、その度に角を破壊し、尻尾を切断した。
アルバが振り下ろした武器は、Monster―――ジンオウガとやらを軽々と切り裂き、それによって、討伐を完了した。亡骸から美しく、弾けるように飛び散ったのは、さっきまで纏われていたThunder。


「あれは、あのもんすたーが起こしてたのか?」

「そーだけども、厳密にはちょっと違うかなあ。さっき飛んでったの、あれ雷光虫っていってね。衝撃で放電すんの。んで、ジンオウガは自分で起こしたのとその雷光虫の電力を借りて、さっきの雷光まとい―――"超帯電状態"になるワケよ。頭良いよなあ流石俺の嫁!愛してる!」


にこにこ笑いながらいうアルバは、ある意味で一番良い顔をしてる。こっちからしてみりゃ、その攻撃や生態を脅威とすら思ってないことが恐ろしい。
無駄に丁寧な剥ぎ取りのあと、今までと同じように、その骸を爆弾で処理すると、大きく伸びをする。


「さて、と……討伐も終わったことだし、俺は帰るかー。ネコタク何処にくるんだっけ」

「終わりなのか?」


小十郎が問い掛けると、アルバはああうん、と気の抜けたような返事をした。Item boxの前に向かって歩きながら、俺と小十郎を見据える。


「此処来る途中で、ギルドから連絡があってね。ジンオウガで最後ってことだったからさー。流石に何時までも村放置は出来ないし、此処にいても俺場違いだし。伊達ちゃんからかうのは楽しいけどね!」

「とっとと帰れ」

「わぁお、伊達ちゃん酷すぎワロタ」


けたけたと笑う姿は、最初ほどムカつくことはなかった。寧ろ、下手に真面目なのよりも、こっちのほうがアルバらしいとまで思う。
武器を仕舞うと、アルバはItem boxを背負った。俺の横にいたマサも、四ツ足でアルバのところへ駆けていく。


「んじゃ、幸ちゃん達にもヨロシク伝えてよ。何かあったら"ハンターズギルド"に連絡して、指名すれば俺が来ると思うよ多分。多分ね!」

「多分を強調し過ぎだ。ナメてんのか」

「片小さん片小さん、それ違う役職の人に見えるからヤメテ!あと心折設計マジ勘弁。俺、脆弱な豆腐メンタルだからさー」

「何が豆腐Mentalだ、訳分かんねえ。角にぶつかったら死ぬんだろ、何処が脆弱なんだよ」

「伊達ちゃんも言うねえ!」


けたけた、けたけた。今思えば、よく笑う奴だ。しかも、それには大した意味が無いように思える。可笑しい訳でも無い。楽しい……のかもしれねえけど、そうは見えない。少なくとも、狩りの間に、そんな余裕があるとは思えない。
それを問おうかと口を開きかけたとき、アルバはニッ、と心底楽しそうに笑った。


「伊達ちゃん、片小さん、まったねー!最後に閃光玉をプレゼント・フォー・ユー!」


そういった瞬間、強烈な光がそこで弾けた。まともにくらって、俺も小十郎も動けねえ。
漸く目が見えるようになったとき、アルバの姿は疎か、気配も何もかもが消えていた。


「あッ……ンの野郎!次来たら叩き斬ってやる!」









「ふっふっふ、伊達ちゃん怒ってたなあ」

「旦那さん、聞こえてたにゃ?」

「もち。耳は鍛えてるし、あんだけ大声ならねー」


ネコタクに揺られながら、マサムネとそんな会話を交わす。それから、ぐっと伸びをしてからねっころがった。
空は高くて、ユクモ村から見るのと何ら変わらない。



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