08
「KG!邪魔だから帰れっつってんだろ!ハウス!」
「こんな状況でそう言われても無理だって!てかはうすって何?!」
そんな会話をしながらも、足は止めることが出来ない。理由は勿論、目の前にいるもんすたー。名前とかはよくわからないけど、白い身体は、どこかナメクジを彷彿させる。 要するに、あんまり気持ちいい光景じゃない。
「めんどくさいんだよネブラは!防具はスキル良いから好きだけどさあ!」
そう言いながらも、アルバは攻撃の手を緩めない。ごり押しとかじゃなく、相手の隙を穿っていく。 それを見据えてると、くいくい、と裾を引かれた。見下ろした先には、マサの姿。
「なんだい、マサ」
「此処は旦那さんに任せて僕達は帰るにゃー。邪魔なだけにゃ」
早くするにゃ、と言われても、アルバを置いていっていいものかと、良心が邪魔をする。 渋る俺を、マサは裾を引っ張って、旦那さんの邪魔にゃ!とまくし立てた。
「早く行けっつってんだろKG!邪魔!周り気にしなきゃなんない俺の事も考えろ!ハウス!」
「だからはうすって何?!……分かったよ、絶対戻ってきてくれよ、アルバ!」
誰に言ってんだ!というアルバの声を聞きながら、マサと一緒に洞窟を出る。中から咆哮が響いてたけど、距離があるからか、耳を塞ぐほどじゃない。 一度立ち止まって、振り返ったけど、あるのは暗さだけ。音さえも、もう聞こえない。 立ち止まった俺を、マサがまくし立てた。少し間を置いてから、踵を返す。自分に言い聞かせるように、アルバは大丈夫だと、胸中で唱えながら。
*
「あー……疲れた……謙信様、戻りましたー」
あれから暫くして、日も傾き始めた頃、アルバは帰ってきた。大きな怪我こそ見当たらないけど、着てるものは所々が汚れてる。思ったよりかかったな、と言いながら、あいてむぼっくすに武器を立て掛けてた。
「よくもどってきました。いぎょうは……?」
「いぎょう?……ああ、異形ってことスか。勿論、ちゃんと討伐してきましたよ」
なるほど、面白い表現っすね、なんて笑うアルバとは違って、俺は内心ホッとしてた。 あそこでアルバが死んだりしたら、後味が悪いなんてもんじゃない。結果として、アルバは生きて戻ってきたからいいんだけど。
「……KG、何?何なの?」
「え?何が?」
「ずっとこっち見てんじゃん。俺は見世物じゃねぇよ金取んぞ」
何時ものような悪態というか、アルバの場合、それが性格なんだろうけど、茶化すような毒のような、その言葉に頬が緩んだ。勿論、金なんか渡さないよ、と返しておく。 へぇえ?というちょっと不機嫌な声が聞こえたと思ったら、俺の顔面に衝撃と冷たさが。 ぼとっ、と落ちたのは純白の塊。引き攣った顔でアルバを見ると、両手に雪玉を持って、凄くイイ笑顔をしてる。 その光景に、さあっ、と音がするくらい一気に、顔が青ざめたのが分かった。
「くたばれKG!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよアルバ!そりゃ理不尽って―――うわっ!」
越後に来たときとおなじように、ばかすかばかすか投げられる雪玉。しかもかなりの命中率。 さらに、やたらと痛いのがあるから疑問に思ってたら、中に石が入ってるのもあるらしい。……え、俺大丈夫?
「ほーらKG、避けても流血沙汰にするぞ!」
「軽く言ってるけど怖い!というより、流血沙汰確定なの俺?!」
けたけたと笑うアルバ、必死に避ける俺。その光景を、謙信は微笑ましそうに、かすがちゃんは呆れて、マサは知らん顔。 どうやら、誰も助けてくれそうに無い。
120712 ← back →
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