08






「KG!邪魔だから帰れっつってんだろ!ハウス!」

「こんな状況でそう言われても無理だって!てかはうすって何?!」


そんな会話をしながらも、足は止めることが出来ない。理由は勿論、目の前にいるもんすたー。名前とかはよくわからないけど、白い身体は、どこかナメクジを彷彿させる。
要するに、あんまり気持ちいい光景じゃない。


「めんどくさいんだよネブラは!防具はスキル良いから好きだけどさあ!」


そう言いながらも、アルバは攻撃の手を緩めない。ごり押しとかじゃなく、相手の隙を穿っていく。
それを見据えてると、くいくい、と裾を引かれた。見下ろした先には、マサの姿。


「なんだい、マサ」

「此処は旦那さんに任せて僕達は帰るにゃー。邪魔なだけにゃ」


早くするにゃ、と言われても、アルバを置いていっていいものかと、良心が邪魔をする。
渋る俺を、マサは裾を引っ張って、旦那さんの邪魔にゃ!とまくし立てた。


「早く行けっつってんだろKG!邪魔!周り気にしなきゃなんない俺の事も考えろ!ハウス!」

「だからはうすって何?!……分かったよ、絶対戻ってきてくれよ、アルバ!」


誰に言ってんだ!というアルバの声を聞きながら、マサと一緒に洞窟を出る。中から咆哮が響いてたけど、距離があるからか、耳を塞ぐほどじゃない。
一度立ち止まって、振り返ったけど、あるのは暗さだけ。音さえも、もう聞こえない。
立ち止まった俺を、マサがまくし立てた。少し間を置いてから、踵を返す。自分に言い聞かせるように、アルバは大丈夫だと、胸中で唱えながら。









「あー……疲れた……謙信様、戻りましたー」


あれから暫くして、日も傾き始めた頃、アルバは帰ってきた。大きな怪我こそ見当たらないけど、着てるものは所々が汚れてる。思ったよりかかったな、と言いながら、あいてむぼっくすに武器を立て掛けてた。


「よくもどってきました。いぎょうは……?」

「いぎょう?……ああ、異形ってことスか。勿論、ちゃんと討伐してきましたよ」


なるほど、面白い表現っすね、なんて笑うアルバとは違って、俺は内心ホッとしてた。
あそこでアルバが死んだりしたら、後味が悪いなんてもんじゃない。結果として、アルバは生きて戻ってきたからいいんだけど。


「……KG、何?何なの?」

「え?何が?」

「ずっとこっち見てんじゃん。俺は見世物じゃねぇよ金取んぞ」


何時ものような悪態というか、アルバの場合、それが性格なんだろうけど、茶化すような毒のような、その言葉に頬が緩んだ。勿論、金なんか渡さないよ、と返しておく。
へぇえ?というちょっと不機嫌な声が聞こえたと思ったら、俺の顔面に衝撃と冷たさが。
ぼとっ、と落ちたのは純白の塊。引き攣った顔でアルバを見ると、両手に雪玉を持って、凄くイイ笑顔をしてる。
その光景に、さあっ、と音がするくらい一気に、顔が青ざめたのが分かった。


「くたばれKG!」

「ちょ、ちょっと待ってくれよアルバ!そりゃ理不尽って―――うわっ!」


越後に来たときとおなじように、ばかすかばかすか投げられる雪玉。しかもかなりの命中率。
さらに、やたらと痛いのがあるから疑問に思ってたら、中に石が入ってるのもあるらしい。……え、俺大丈夫?


「ほーらKG、避けても流血沙汰にするぞ!」

「軽く言ってるけど怖い!というより、流血沙汰確定なの俺?!」


けたけたと笑うアルバ、必死に避ける俺。その光景を、謙信は微笑ましそうに、かすがちゃんは呆れて、マサは知らん顔。
どうやら、誰も助けてくれそうに無い。



120712
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