絵の無い絵本


※ジョジョの奇妙な冒険・5部
※「恥知らずのパープルヘイズ」前後の時間軸
このネタと同設定
※カオス





「―――Grüß Gott、マスター」

「Grüß Gott. 奥へドーゾ。オーダーはいつもので?」

「ええ、お願いします」


にこり、と笑った青年の顔は、一般的なそれの雰囲気とはかけ離れていた。なんと形容するのが正解かは知らないが、言うならば、そう、毅然としていながら、人を惹きつけるカリスマ性を包括した、魔性の笑み。それを見て、こいつに情報を与えるにあたって、調べた過去を思い出す。ああ、きっちりとあの男の血は継いでいるらしい。それも、かなりいい形で。
奥へ向かう背を見送ってから、ドアにかけたプレートをクローズ側にひっくり返す。さてと、久々の上客だ。
いつもの手順でカプチーノを淹れ、自分用にはエスプレッソを。それを持って、奥の部屋へと足を踏み入れる。


「おまちどうさん」

「ありがとうございます」


かちり、と、カップとソーサーが音を立てる。クライエントを持て成す奥の部屋は、極端にモノを減らしてある。最低限のテーブルと椅子、ぜんまい式の振り子時計。それくらいしかない。まあ、目の前のこいつの能力の前では、何があろうと無駄に近いのだが。


「《パッショーネ》のボスが一人でこんな遠出とは―――よくまあ周りが許したな、"ジョジョ"?」

「貴方のところだと言えば、二つ返事で許しますよ。僕は貴方を信頼しているんですからね、ジルヴェスター?」

「信頼ねえ……」


自然に浮かんだ嘲笑をそのままに、壁に手を付いた。パリッ、と小さな火花のようなものが散って、僅かな隙間から、カードが数枚出てくる。トランプの柄のそれは、手足があって、明らかに"普通"から逸していた。


「こんなモノをわざわざ連れてくるのが信頼だと?笑わせてくれるなよ、ジョルノ・ジョバァーナ」

「これは失敬。警戒をしておくに越した事はありませんから」


人のいい笑顔は崩れない。相変わらず喰えないヤツだ。まあ、人のことなど言えた義理ではないが。
じとり、と睨むように見ても、ジョルノは肩を竦めるだけ。だが、それは不意に正されて、顔から笑みも消えた。言うなれば、真面目な顔、だ。


「人物についての情報が欲しいんです」

「名前は?」

「パンナコッタ・フーゴ。使用するスタンドは《パープル・ヘイズ》―――……かつて、僕と同じチームだった人間です」


静かに紡がれた言葉は、何処か湿気たように重く、形容しがたい雰囲気を孕んでいた。
じい、と顔を見据えつつ、記憶の引き出しを漁る。ジョルノと同じチームだったというなら、一度見ているはず。情報の更新は行っていないが、覚えがあるくらいなら、それなりに最近に見たのだろう。


「構わないが、それなら俺よりも組織の人間を使った方が早いし、安上がりだと思うが?」

「彼は僕たちと決別こそすれど、"組織を裏切って"はいない。リスクを負うのは無駄なことです」

「アンタらしい。―――Jawohl(了解した)


いつものように返事をして、エスプレッソを飲み干した。冷めたせいか、あまり美味しいとは思えない。
カプチーノを飲み干して立ち上がるジョルノに、なあ、と声をかけた。ジョルノはすこし意外そうな顔をして、俺を見据える。なんだ、そんな年相応の顔も出来るのか。


「アンタにひとつだけ、俺から問わせてくれ」

「はい、―――なんでしょう?」

「アンタは"(ディオ)"になりたいのか?"(ジョースター)"になりたいのか?それとも、他の何かか?」


俺の言葉に、ジョルノは目を見開いた。それはそうだろう、俺の発した言葉は、自分と、魂を継ぐ彼らと、SPW財団のごく一部くらいしか知らない、過去の名前だ。
ゆうらり、と、ジョルノの姿がぶれて、能力が姿を現す。たしか―――そうだ、《ゴールド・エクスペリエンス》だ。
座ったまま動かない俺に痺れを切らしたのか、ジョルノは小さく息を吐く。


「……僕は別に、何かになるつもりはないですよ。ただ、神のように全知全能の力を振りかざす気はない。どんな暗闇の中でも、星のような小さな光を見つけて、歩むだけです」

「そうかい」


予想していた答えではあったが、改めて聞くと嬉しくなった。あれは無駄じゃなかった、心からそう思える。
目を伏せた俺が次に前を見据えたとき、ジョルノは俺の目の前にいた。それも、わざわざしゃがんで、椅子に座る俺に目線を合わせて。


「ジルヴェスター・ミュラー=ヴィーラント。僕も貴方に、聞きたいことがあるんです」

「言ってみな。答えるかは内容次第だ」

「君は―――"どこまで"、"何を"、知っているんだ?」


言葉は何処までもまっすぐで、それが何故か、酷く滑稽に思えた。誰から聞いた―――いや、違う、誰かの《情報》で見たんだったか。

『人がジョルノを見るとき、そのあまりにも大きい器を前に、自分自身を投影してしまう』

その言葉が本当だとするならば、俺は今、自分自身を滑稽だと思っているのだろう。ああ、滑稽だとも。俺は縋りついているだけだ。この世界に。自分の欲を満たしてくれる、愛おしき能力に。
俺が黙ったままだったせいか、ジョルノが口を開く。そこから言葉が紡がれる前に、彼の唇に指を押し当てた。


「なあ、ジョルノ・ジョバァーナ」

「――――――」

「"Curiosity killed a cat(好奇心は猫を殺す)"って、知ってるよな?」

「……ッ!!」


目を見開くジョルノに、そう、俺は笑う。知らなくて良い世界なんか、幾らでもあるんだ。それを知らないだけ。見ぬは極楽、知らぬは仏。それでいい。




絵の無い絵本
(満たそうとするほど拡がる空虚は)
(ストリンジェンドも追いつかない)

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「恥知らずのパープルヘイズ」読了記念!www
いやあ、素晴らしかったです!やっぱり5部いいよ5部。

そしてこの夢主も大分設定が固まってきました。ノったら書くかも。予定は未定。


2013/06/17 22:25




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