例えばそれを知らなくても、私は出会ってしまっただろう。 | ナノ


  あるきだす


「こっちに遊びにこない?」

なんて、まるでポケモンセンターに行こう、とでも言うような軽さの電話がかかってきたのが昨日のこと。電話の相手はフキヨセシティのジムリーダー、フウロちゃんで、私が枕に顔を埋めてむにゃむにゃ言ってる深夜2時に、なんの躊躇いもなくライブキャスターで連絡をいれてきたのだ。もとより自由奔放なきらいのある子だから、パッと思いついてパッと連絡をいれてきたのだろう。

「ね、いいでしょう?」
「うんー…」

そう聞かれてしまえば、優柔不断ぎみの私には断る術なんてなかったのです。

たしかに明日はお休みなのだ。しかしどこでそれを知ったのかだとか、私がフキヨセシティまで行くのは相当の労力がかかることなんかを引き合いに出したくなったのだけど、彼女は一言、「迎えにいくから」と言っていて、私は待つしかなくなってしまう。


「ね!気持ちいいでしょー!」
「そだね、っあああ前、前見てフウロちゃん!」

まさか飛行機で迎えに来られるなんて思ってなかった。なんてことだろう。フウロちゃんは仕事も趣味もフライトだから、こんなこともあるかもしれないと考えておくべきだった。それよりフウロちゃんはもっと安全運転を!

「う、あ、回らないで!」
「これが楽しいんだよー、っと、あれは…」
「だから前!前!」

目的のタワーオブヘブンの近くでぐるりと前転して、飛行機に慣れてない私には世界がぐるぐると回っているようにしか思えなくて、もうわけがわからなくなってくる。ごめんごめん、と笑うフウロちゃんを見つつ、乾いた笑いが漏れた。


それから、すぐにフキヨセシティへと着陸していった。帰りは何が何でも歩いて帰ろうと決めた。ライモン辺りまで行けたらビジネスホテルにでも泊まる、絶対。飛行機こわい。

「えへへ!今日のは貨物機だったけど、今度はちゃんとした飛行機で楽しもうね!」
「当分空飛ぶものに乗りたくない、かな…」
「ええ?帰りも送るのに…」

こてん、と首を傾げる彼女に、ぐ、と詰まる。善意、善意だ。フウロちゃんは善意でそう言っているし、善意でアクロバット飛行までやってのけた。それを否定するのは胸が痛い。

「じゃあ、タワーオブヘブンに行こう!別の用も出来たしねー」

そう言いつつ歩き出したフウロちゃんの後ろを、私もついて行く。と、フウロちゃんが男性に向かって声をあげた。

「アララギ博士、そちらのトレーナーさんは?」
「おお、フウロくん、彼は娘の知り合いでトウヤくんといってね、ポケモン図鑑完成のためにイッシュを旅をしているんだよ」
「そうなんだ!だったらジムにも挑戦するでしょ?わあ!とっても楽しみ!」
「はい!フウロさんはフキヨセジムの?」
「うん!そうだよ!今からこのお姉さんとタワーオブヘブンに行ってくるから、それからなら挑戦を受け付けるよ!」

どっと進んで行く話についていけなくて惚けていると、「それじゃっ、いこっか!」とフウロちゃんが声をかけてきた。一拍遅れてそれに返事をすると、彼女はにこーっと笑って歩き始めたので、さっきまでフウロちゃんが話していた二人にぺこりとお辞儀をして、小走りで追い掛けた。


121109

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