例えばそれを知らなくても、私は出会ってしまっただろう。 | ナノ


  やきつくめ


欠伸をしながら自転車を漕いでいた。
眠い。そして重い。リュックサックにはジュペッタが入っている。動かなければ少し不気味なぬいぐるみで済むのだけれど、ぱたぱたと腕を振ったり、風になびく頭の部分がポケモンであることを周囲に知らしめる。

空を飛ぶことの出来るポケモンを連れていれば、こんな苦労しなくていいのだけれど、私は別にトレーナーでもないものだから、バッジも持っていない。というわけで人力で移動するしかない。

砂嵐の吹き荒れる4番道路を、野生のポケモンやバトルしたがって構えているトレーナーたちを避けつつ逃げつつ自転車を押して行けば、娯楽都市のライモンシティに着く。しかしながら今日の目的地はまだ先で、その隣のホドモエシティにあたる。人間の足では朝から出てきても、どうしても時間がかかってしまう。

ポケモンを捕まえて育てて、バッジを集めればいいのかもしれないけれど、私はあんまりバトルが好きではない。どちらかと言えばインドア派だ。

この後ろにいるジュペッタは、父の故郷へ里帰りした時についてきたカゲボウズからゆっくりと進化した子だ。したバトルと言っても、アーティと遊びみたいなものだったから今のジュペッタはもともとレベルが高かったんだろうし、へんてこりんなわざばかりを覚えている。

「ねえ、ボールに入らないの?」

小さな子どもほどの大きさと、子供よりは軽い重さを背負ったままなのは、少し疲れてきた。ボールに入りたがらないのはわかっていたけれど、出来れば家か職場に居てくれたらとってもよかった。どうにもこの子は私が大好きなようだ。ポケモンを連れていなければトレーナーが勝負を仕掛けてくることもないのだけど、キシキシと笑うこの子がいることでやけに絡まれてしまうのだ。とてもつらい。

キシ、と鳴いて頭に腕をぺたんとぶつけてくる。入ってくれる予定はないらしい。溜息をひとつ吐いてペダルを漕ぐのに専念することにした。



「つっいたぁ…」

跳ね橋を渡り切って、ぐっと伸びをする。見れば、太陽が高い位置にある。お昼より少し前かもしれない。自転車を止めて、目的のホドモエマーケットまで歩く。

ホドモエマーケットで透明水彩の絵具とメディウムを買ってきてほしい、そうアーティに頼まれてしまったのだった。ジムでのバトルもあり、連れているポケモンもみんな空を飛べない。気軽に買いに行けない彼の代わりに、館長に許可を取ってやってきたのだ。

マーケットには沢山の品物があるから、目移りしないよう目当ての画材を探す。ふ、と外の通りに緑色の髪を見つけた。緑色の髪の毛なんてイッシュではそんなに珍しくないというのに、咄嗟にマーケットを出た。

例えNくんが居たとして、何か話すことがあるわけでもなかったのに。

「Nく…っ」

それにしたって早合点だった。マーケットを飛び出して、通りを見回して見たけれど、変な格好をした集団と緑色の長髪の、左右で色合いの違うマントのようなものを着た、ひどく背の高い人が歩いているだけ。

その集団だけ、といっても、異常なグループだと思う。青みのかかった灰色のフードを被った、てるてる坊主の様な格好。もしかしたら例の、ポケモンを奪って行く事件のグループなのかもしれない。私の声が聞こえたのか、背の高い人がこちらを振り向こうとして、また咄嗟にマーケットへ逃げ込んだ。


振り返りざまに見えた深緋色の眸が、やけに脳に焼き付いた。

120320

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