見た目二歳児の私がぽてぽてと歩いていたら、一つ下の弟がはいはいでこちらにやってきていることに気づいた。とりあえず止まって待ってやると、少しずつ前進して、私のちっちゃい足元にまでついた。

「あーう」

「おまえげんきだな」

「うー」

「うわなにす…っ」

むんず、と私のひらひらワンピースを掴み、少しずつ立ち上がっていくドラコに、クエスチョンマークとエクスクラメーションがいくつか飛ぶ。得意げに「あい!」とドラコが言うので、よく見てみればこれは「つかまり立ち」じゃないか?私もやった。去年くらいに。そりゃあつかまったのはイスだったんだけど、こいつお姉様につかまりやがった。

まあ、ドラコが初めてつかまり立ちをしたのを父上と母上知らないのは可哀想だ。きっとどこか、母上はきっと近くにいる。

「ははうえー!」

子供特有の高い声。自分の声ながらキーンとする。とんとん、と音がするので、多分二階にいたんだろう。降りてきてる、はず。これがドビーなら泣く。

「ポラリス?どうしたの?」

階段を振り向けば母上の姿。良かった。ドビーだとキーキー騒いじゃってドラコが泣いちゃうから。

「どらこ、どらこ!」

二歳児の子供が「ところで俺のこいつを見てくれ。どう思う?」と聞いたところで、「すごく…立ってます…」と言ってくれるはずがない。よもや私の精神年齢が二十歳に近いなんて知らない母上のため、私は普段から年相応の喋り方を心掛けている。まだ小さいドラコに対してはよく喋ってしまうが。

私のワンピースを掴んで立っているドラコを指差しながらきゃんきゃん吠えると、母上が早足でこちらまでやってきた。

「まあ!ドラコはもう立ったのね!」

中腰になった母上がドラコをがしっと抱く。ついでに私ごと。ドラコは褒められているのを理解しているのか「あい!」と元気よく返事をした。全く可愛い弟じゃねぇか。あわよくばこの素直な性格のまま育ってほしい。そして「姉上!」と呼んでもらえたら本望だ。

「帰ってきたらルシウスにも言わないと。うふふ、今晩の食事は特別にしなくてはね」

可憐な花が飛んでいそうな母上の笑顔に胸がほかほかする。二階に戻って行った母上の抱擁から解放されたドラコは、不安定ながら何にも掴まらずによたよたと二足歩行の練習をしている。

こいつぁ褒めたら伸びるタイプだ。全力で母上が好きらしい。
私はドラコがべちゃっと転けて泣き出したのを見て、ぽてぽてと近づいて頭を撫でてやった。

「なくなよ、おとこのこだろ」

「うー…」

ドラコは薄青い眸を潤ませたまま、私の言葉に応えるようにぷるぷると顔を震わせている。金色の、母上によく似た柔らかい髪を撫でて「ちちんぷいぷいいたくない!」と唱える。痛みを取る呪文なんてちちんぷいぷいしか知らない。よくある子供騙し。

「ほら、いたくないだろ」

「あい」

ドラコがはにかむ。くそうこいつ可愛いな。



(弟が出来ました)