心配でたまらない夜は越えた。

あんまりにも怯えてきってしまっているから、とフクロウを飛ばして私を呼んでくれたハグリッドにはとても感謝している。まあ、こんな時間だったから見回りをしていたセブルスに見咎められてしまったけれど、ドラコを迎えにいくの、と言えば思いあたったかのように眉間の皺を深くした。それは名目だけでなく事実だったため、一応見逃してもらえることに。セブルスは少々私に甘いと思う。

ユニコーンを殺したであろう犯人を見てしまって、ドラコは精神的に参っているようだった。姉上、姉上とぐずって寮へ戻るのにも一苦労。寮にやっとの思いでついても一人で寝たくないとの一点張りで、しかしドラコたちの部屋に私が入るわけにもいかない。女子寮にいたっては男の子が入ろうとすると寮への階段が坂になってしまう。

仕方がないので、毛布を持って来て談話室で寝ることにした。恐怖と疲労が蓄積されていたらしく、思いの外ドラコはすぐに眠ってしまったが、私は心配で眠れず、やっと眠れたところを叩き起こされていたため、非常に目が冴えていた。

何か適当な本でもあれば暇は潰せただろうに、手元には残念ながら何もない。ドラコの固められたままのブロンドを撫でながらため息を吐いた。

「ねえドラコ。姉上にはね、好きなひとがいたんだって」

ぼつんと呟く。ドラコは眠っているから、返事も相槌もない。それが心地よかった。

「私が知らない私の好きなひと。私を好きだったかもしれないひと。どうしたって私はそのひとを好きなの、でも私はその私を覚えてなくて、…ううん、思い出そうとしてないのかな。でもね、今の私も、とても大切でしょう?あなたの姉上が、知らない姉上になってはいけない。それでも私は…」

ため息をまた吐く。

吐き出しようのない感情はあまりいい言葉にならない。こんなところで眠った弟に語り掛けるより、私は私で抱え込むべきなのだろう。

無理矢理に目蓋を閉じる。眠ってしまえば早い。ドラコが元気になっていればいい。背凭れに深くもたれかかると、少しずつ、意識を手放していけた。


(夜を越える)
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