私が産まれた。いや、これは酷くおかしい話なのだけれど、私は私が産まれたという事実を理解したのだ。

どういうことなのだろうか、さして面白くもない私の顔を覗き込む私の父親であろうその人は、大層嬉しそうにしていた。私の横にいる私の母親であろうその人は、疲れが滲み出ているものの、父親と同じく酷く嬉しそうに笑っていたのだ。

普通の嬰児らしく甲高く騒がしい声で泣いている自分だが、内心は全く平静としている。なんだこれ。

普通、産まれたての赤ん坊がこんな風に思わないだろう。私はよっぽどの天才なのかもしれない。IQ200とか、生後間もなく言葉を自由に操るとか。

ふと、父親の顔を見つめる。父親からすれば我が子に見つめられているのだから、「俺がパパだ」とばかりにこちらに向かって「おめでとう」「愛しているよ」なんて言っている。

今私は笑っているだろう。父親がはにかんで、「この子は私たちの宝だ。なあナルシッサ」と一言母親に告げた。ナルシッサ?おいパパ上、ナルシッサって、え?

「そうね、ルシウス。大事な宝、そうね、名前は…ポラリス」

「いい名前だな」

二人がふわりと笑っている。母親はナルシッサ、父親はルシウス。ついでに私の名前はポラリス。

おい。ちょ、ま。頭の中がぐるぐるしていた。まだ空っぽのはずの脳みそが、つるつるのはずの脳みそがフル回転している。その脳みその引き出しから情報が溢れる。
待てよパピーマミー。

何かがおかしいです。



(知らないはずの世界)