目が覚めたらなぜか視界が真っ暗だった。

目を慣らしていくと、徐々に視界に本棚がたくさん確認できて、私は図書館にいるということに気付く。なんでこんなことにいるのかは、確かに覚えているけれど、どうしてこんなに暗いのかがあまり理解できていない。クリスマス休暇だから、ついでにハリーの言っていたニコラス・フラメルについてでも調べようと訪れたのだった。

何でこんなに暗いのだろう。膝の上には毛玉がいる。私の前の机には本がいくつか積んである。魔法史に関するものを調べてみたけれど、あんまりよく分からなかった。

「ああ、起きたんですか」

涼しげな声がした。ぱっと声のした方に視線を投げると、一つ離れた席にレギュラスさんがいて、黒髪を揺らしてこちらを見た。どうしてこんなところにいるんだろう。

「マダムから起こしておいてほしいと頼まれたんですよ。普通なら叩き起こすんでしょうけど、まあ、休暇ですからね」

「そう、なんだ…」

気まずい。至極気まずい。マダムもどうしてレギュラスさんに頼んでしまったんだろうか。もっと、別の人だったなら。私にどうしろというのだろう。レギュラスさんはどこかへ去るようなしぐさも見せない。

「…ポラリスは、どうしてここにいるんですか」

「ちょっとした調べものをしにきたんだけど…。レギュラスさんは休暇なのに帰らなかったの?」

すごく不思議な気分でいっぱいになった。こんな風に会話が出来るだなんて思っていなかった上に、自分もこう、落ち着いて話せるとも思っていなかった。避けられている気がしていたのに、私を起こすという頼まれごとも済んでいるのに、どうしてだか席に座ったまま。

「なんとなくですよ。ポラリスだって残っているじゃないですか。それと一緒ですよ」

そっか、と相槌を打つ。

もう夜なんだろうから、寮に戻らないといけない。なのに、なんでかここから動きたくないような、動けないような、建前と本心の差異が生じていた。気まずく思うのが普通なのにどうしてだか居心地がよく思えて。

「どうして、私たちはまたここにいるんだろうね」

自分がぽつりと零した言葉が、自らの胸に突き刺さる。私も、レギュラス、レギュラスさんも一度死んだ身だというのに、どうしてまた生きて、ホグワーツで出会ったんだろうか。

「レギュラスは、死んじゃって、私は、自殺したんだって、それなのに」

「僕は」

レギュラスさんが口を開く。いつの間にか席から立ち上がっていた彼は、私のすぐ横に立っていた。毛玉が膝から降りて、足元にじゃれつく。それに優しげな視線をくれて、私にまた視線を戻す。真っ直ぐな視線が、薄青い眸が、私の両目を射抜くようにそこにあった。

「やり残したことをすべきなんです。いえ、しなければいけない。でなければ、ポラリスを置いて逝ってしまった意味がないんです。だからこそ、僕とポラリスは関わるべきじゃないんです。今までも、これからも。きっと」

そう言ってしゃがんで、毛玉を一撫でした。それでは、なんて言って、立ち去ってしまう。



(その背中を覚えてる)
111011