「帰らないって、どうして?」
「んー、今年からはホグワーツに残ろうかなぁって。母上が待ってるから、ドラコはちゃんと帰るのよ」
荷物をまとめたドラコが、私の前で頬を膨らませている。対する私は荷物なんてまとめていなくて、ホグワーツに残る心づもりである。母上にも事前にフクロウ便を送っている。惜しがっていたけれど、ドラコもいるし、私は自由にしなさい、との返事をもらった。
こんな時、姉というのは便利だと思う。ドラコには申し訳ないと思うけれど、彼はもともと休暇の時は帰るつもりでいたのだからいいだろう。なんて考えて正当化する。
「姉上が残るなら僕も」
「はいはい、駄目。母上が帰っていらっしゃいって。それで、私は残ってもいいって」
むすり、と不満げな顏でこちらに振り向くドラコに、手をひらひらと振って見送った。
* *
大広間の大きなクリスマスツリーを見上げる。これは多分ハグリッドが持ってきたんだろう。飾り付けはフリットウィック先生がしているみたいだ。つくづく魔法というものはすごいと思う私である。
テーブルに座っている人を見回していると、ハリーとロンくんがいることに気付く。彼らもクリスマス休暇で家に戻らないのだろうか。そういえばハリーはダーズリーさんちにいるんだっけ。だったらこっちの方が居心地がいいんだろうなぁ。
二人しかいないけれど、ハーマイオニーはどこにいるんだろうか。もしかしたら彼女だけ帰るのかもしれないけど。
「…チェス?」
「あ、ポラリス」
ロンくんが私を呼ぶ。良かった、マルフォイ、だなんて問いかけられたら私つらくなっちゃう。
見たところ魔法使いのチェスのミニチュア版をやっているようだ。私は詳しくないけれど、ドラコがうんうん唸りながら参考書のようなものを読んでいた記憶がある。嗜みにしたかったのかもしれない。あとは、もう少し古い記憶では、シリウスとジェームズがやっていたような。
「ナイトをEの5へ」
ハリーがそう言うと、白のナイトの駒が勝手に指定されたEの5に移動する。ふっと見ると、ハーマイオニーが荷物をからからと引っ張ってきていた。ハーマイオニーは休暇で家に帰るんだろう。
「クイーンをEの5へ」
ロンくんがそう言うと、赤のクイーンの駒がEの5に動いていって、白のナイトを椅子でかきんと壊した。
「なにこれ野蛮じゃない?」
「魔法使いのチェスだよ。帰る用意した?」
ハーマイオニーの不満そうな声にしたり顔でそういうとロンくんに、ハーマイオニーが聞き返す。ロンくんは相変わらずのしたり顔のまま、両親がルーマニアに行く旨を言う。チャーリー兄さんという人に会いに行くらしいけれど、ロンくんには何人兄弟がいるのだろうか。ドラゴンの研究というと、なかなか出来るものではないと思う。さしずめ大家族、というべきなのか。
「あらそう、じゃあ、ハリーを手伝ってあげて。ハリーは図書館に行って、ニコラス・フラメルについて調べるって」
「もう百回も調べたじゃないか!」
「…ニコラス・フラメル?」
ロンくんの不満の募ったような声と私の疑問に何の反応を示さず、ハーマイオニーは「閲覧禁止の棚はまだでしょ」、と小さく言った。ぎょっとしてハーマイオニーを見ると、悪い顔で笑いながらにこりとした。
「よいクリスマスをね」
ひらり、踵を返して言ってしまう。
「…あいつ僕らの所為で悪になったな」
ロンくんがこそりと言って、私は乾いた笑いが喉からはみ出してきた。よほど以前のハーマイオニーは規則に厳しかったらしい。なんという変わり様だろうか。ハリーが私にニコラス・フラメルを知らないか、と尋ねたけれど、私の少々多い程度の記憶の中には引っかかりもしなかった。
(メリーメリー)
111006
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