組み分け式を見守りつつ、セブルスの視線は完全にハリーにロックオンされていた。去年の私のようだ。組み分け前から見つめられてるのも私と一緒。

ハリーもハーマイオニーも、あとあの赤毛の子、ロンくんもグリフィンドールに組み分けられた。ロンくんの苗字聞いたことあるんだけどどうしてだろうか。

無論、と言ってはなんなのだけど、ドラコは組み分け帽が頭に触れるか触れないかのうちにスリザリンだと言われていた。

空いていた私の周囲は、ドラコとその取り巻きが埋めた。ドラコ凄いな。

 * *

組み分けが終わり、ダンブルドア先生の言葉一つで長いテーブルの上を食事が埋める。「前」の時から毎回思っていたのだけど、あれってどうやっているんたろうか。私もやりたい。

正直言って、グリフィンドールの席が羨ましい。明るくて、陽の中にいるみたいで、楽しそうで、ずるいなって思う。私だって、あんな風に過ごしたい。「前」はあんなに友達に囲まれて、自分なりの幸せを感じていたのに。今だって、そりゃあ幸せかと言われたら幸せかもしれないけれど、どうだろうって気分になる。

否定を始めたら何もできなくなってしまって、甘受に慣れてしまうと、もうここには戻ってこれなくなってしまう。どろどろとした湖に引きずり込まれてしまうみたいに。そこにはどうせ底なんてなくて、口から出てくる酸素の泡は誰かを呼ぶことも出来ない。

「姉上?」

「え、あ。どうしたのドラコ」

何度か呼んでいたらしいドラコに振り返りつつ、無表情だったであろう顏に薄い笑いを乗せる。よくないけど、私が変に暗い顔をして彼に何か心配をかけることになるよりいい。

「グリフィンドールの方を見てたけどどうしたんだ?」

「なんでもないよ」

へらりと笑って、フライドチキンに手を付ける。ドラコは怪訝そうな顔をしたけれど、私は気に留めないことにした。そういえば私は人に怪訝そうな顔を差せてばかりのような気がする。ひどい人なのかもしれない。

「私、パンジーっていうの!パンジー・パーキンソン」

「そ、そうか…」

ドラコが黒くて丸い頭の女の子から猛烈なアタックを受けている。良かったねドラコ。将来のお嫁さん候補だよ。ちらりと私に視線を寄越してきて、ぺこりと頭を下げてきたから少し微笑んで返しておく。

「パンジーちゃん、ドラコをよろしくね」

「ドラコのお姉さん…?」

「うん。ポラリス・マルフォイだよ」

どうにも年下を前にするといつにも増して柔らかい口調になってしまうのが癖みたいだ。そう性格の悪い子ではないだろうから、これからに期待しておこう。根性がひん曲がったりしませんように。スリザリンはそういう子が多いから。


ゴーストたちがどっと現れるのを一年生たちが楽しげに見たり、怖がっていたりしているのを横目に見て、口の中に入っているチキンを咀嚼して飲み込んだ。チキン。シリウス。アズカバン。無意識のうちに淡々とした単語が脳裏に浮かんで、連鎖していく。

遣る瀬のなさにどうしようもなくて、仕方なく右手で後頭部をくしゃりと掻いて口を開く。

「…私、もう部屋に戻るね?やっぱりこういう宴は性に合わないみたいだから」

椅子を引きつつ、またへらりと笑う。この笑い方も癖になっているような気がする。まだ食事を始めたばかりなのに、とドラコが引き留めようとするのを片手で断ってそろそろと大広間から出ていく。



(それは逃げるように)