ホグワーツ特急の中、ドラコの横に座りつつ、ぼーっと外の景色を眺めていた。ドラコはグレゴリーくんとビンセントくんに色々と自慢話をしている。ちょっと二人の席は狭そうな気がするけどそんなことはないと信じている。

「そういえば、今年はハリー・ポッターがいるらしいね」

ドラコがぺらぺらと話し始める。家ではあんなにかわいいのに、どうして他の人を前にすると偉ぶってしまうんだろうか。私としては非常に遺憾。そんなところが父上に似てるなんてお姉ちゃんは悲しいです。

話半分に聞き流しつつ、とりあえず膝の上の毛玉を撫でておく。かわいい。ハリーがどんなに「生き残った男の子」として囃し立てられても、私からすればハリーは大切な親友たちの忘れ形見みたいな子だから、特別扱いなんて変だと思う。例のあの人を退けたのがハリーだとしても、リリーの想いだとしても。

しかしよく似ていると思う。ジェームズも一年のころはあんなだった記憶がある。もっと企みを含んだ顔をしていたけれど。性格はリリー似なのかもしれない。…セブルスはどう思うのだろうか、いつまでも愛している人と、いつまでも憎い相手の子供を。やりきれない気持ちでいっぱいなんじゃないだろうか。

 * *

「…ドラコ、グレゴリーくん、ビンセントくん、そろそろ着くからローブに着替えておいた方がいいよ。私は出とくねー?」

毛玉を腕に抱えつつ、小さい手荷物を持ってコンパートメントを出る。あの中で三人が着替えるのは少し狭いかもしれないけれど、まあ気にしちゃいけないと思う。私はもともと制服を着ていたから荷物のローブを着るだけで済む。めんどくさがりなのはいいことだと思う。

「あ、ねえ、ヒキガエルを見なかった?」

高い声に振り向くと、栗毛でふわふわた髪の女の子がそう尋ねてきた。ネクタイは黒だから、一年生だろう。見なかったよ、とこのコンパートメントにはいなかったということだけ伝えると、そう、と眉尻を少し下げた。

「あ、そうだ。探すの手伝おうか?」

「ありがとう!ネビルのヒキガエルはトレバーっていうんだけど、列車に乗ったところでいなくなっちゃったらしくて」

彼女のヒキガエルじゃなかったらしい。通路を歩きつつ、彼女の話を聞く。そういえば名前を知らない。名前を尋ねるときはまず自分から精神を発揮しつつ、会話をする。

「ヒキガエルってそういろんなとこに行っちゃうものなのかな…。あ、私、ポラリス・マルフォイっていうの。君の名前は?」

「私、ハーマイオニー・グレンジャー。ポラリスは何年生なの?」

「私は二年生だよ。一つ先輩だね」

くすくすと笑いつつ、話をする。ハーマイオニーは新入生なのに私よりも頭がよさそうな気がする。何故だ。私は二周目の人生だというのに。あと、彼女の両親は歯科医だとか。マグル生まれで、ホグワーツの存在を知ったのだってつい最近のはずなのに、すでに教科書を網羅していて、魔法界にも結構詳しいなんて、どういうことなの。

私が新入生だった時なんて魔法って存在にもう、胸が高鳴ってて仕方なかった記憶しかない。教科書なんて、読むわけない。


「ヒキガエルを見なかった?ネビルのカエルが逃げたの」

がらりと男の子二人がいるコンパートメントに割り込んでいくハーマイオニー。こいつはすげえ。この子は将来大物になる。絶対。私が保証する。

杖を振り上げていた方の男の子が、ぎょっとした顔で私たちを見る。続いて、もう片方の男の子も、って。

「ハリー?」

「え、あ、ポラリス?」

うん。私は覚えいてくれるだけでうれしいです。ハーマイオニーが杖を持っていた、くすんだ赤毛の子の前に座って、中断させてしまった呪文を唱えろと言う。やばい。ハーマイオニー本当に大物すぎる。私はといえば出入り口に突っ立っているくらいだろうか。

「お、おひさまー雛菊ーとろけたーバター。このデブネズミを黄色に変えよ!」

箱に顔を突っ込んでいたねずみが少しだけ光って、箱が吹っ飛んだ。ハーマイオニーがあきれたような声を上げて、ハリーの方へ杖を向ける。

「オキュラス・レパロ!」

ハリーの眼鏡がしゅるん直る。なるほど、ハリーの眼鏡は壊れてたのか…誰だ壊したの。ハーマイオニーがハリーをハリーだと認識したらしい。おでこの傷が「生き残った男の子」証拠らしい。なんだか変な感じがする。私にとっては忘れ形見なのに。

「あ、着替えたほうがいいよ。もうすぐ着くから」

「そうね、…あなた、鼻の横に泥がついてるわよ。知ってる?ここよ」

とんとん、と自分の鼻の横を差しながらハーマイオニーが赤毛くんににやりとする。ハーマイオニー本当に大物になる。私が保証する。…これ、二回目かな。毛玉がもぞもぞと私の腕から逃げ出そうとしていたけれど、とりあえず捕捉しておく。たぶん、この列車のどこかにいるであろうレギュラスさんを探しに行くだろうから。

二人のコンパートメントから出て、ハーマイオニーは荷物を取りに行くというから、私は自分のいたコンパートメントに戻ることにする。

「私、ハーマイオニーならレイブンクローかグリフィンドールだと思うなぁ」

ぽつりと呟くと、ハーマイオニーがきょとんとした。

「ポラリスはスリザリンよね。同じ寮になるとは思わないの?」

「スリザリンは個人的に来てほしくないなぁって。ハーマイオニーはスリザリンに来そうじゃないからね」

へらりと笑ってみると、ハーマイオニーは少し怪訝そうな顔をした。私がスリザリンなのがおかしいとか言いたいのかもしれない。ホグワーツについての本にも目を通しているなら、スリザリンが何かしら陰湿だとか、闇の魔法使いを輩出しまくってるとか、そんなことくらい知っているんじゃないだろうか。いや、事実そうなんだけどさ。

「それじゃ、また逢えたらいいね」

「…そうね」

少し不服そうな顔をしたハーマイオニーに手を振って見送りつつ、内心惜しいことをしたなぁと思った。

だって、なんだかみんなグリフィンドールにいるみたいに思えて。私は一人だけスリザリンに放り出さてしまったんじゃないかっていう気分になる。自分からスリザリンにしてほしいって組み分け帽に頼んだにもかかわらず、自分勝手にも程があるなあって思った。



(けろけろ、見つかりません)