今年の寮杯を取ったのはスリザリンだった。緑と銀の垂れ幕が誇らしく揺れている。クィディッチはグリフィンドールが圧勝だったように思えたんだけど、他のことで点が及ばなかったんだろうか。自分の寮なのに、なんだか喜べないのはレギュラスさんの存在の所為なのだろうか。

スリザリン生がゴブレットで乾杯していて、私はそれをぼうっと見ている。口に運んだビーフストロガノフが少し焦げているように感じたけど、ホグワーツの厨房で働く真面目な屋敷しもべ妖精たちがそんなミスを侵すはずもなく、本当はとっても美味しかったんだろう。

お腹はそう空いていない。宴に参加するような気分でもない。そっと宴から抜け出したって、きっと構わないんだろう。お手洗いに行くふりをして、抜け出す。

 * *

「ポラリス」

「あ、セブルス」

振り向くと足音一つ立てずに私の後ろに立っているのは言わずもがなセブルス・スネイプで、十二歳になってもまだ見上げる必要がある育ちすぎた蝙蝠。Ms.フォンダンって呼んでいないあたり怒っているわけじゃないらしい。

というか夏だって構わないでずるずるのローブと手の甲まである中の服は変わらないのね。しかも真っ黒だなんて、そんな、見てるだけで暑い。今は夜だからまあまあましなんだけど。

「レギュラスには会って話したか」

「…何度か会ったし、話した、けど、すっかりわからない。関わらない方がいいだなんて言うから」

ぽつぽつと話してみると、セブルスの眉間の皺が深くなっていくのがわかった。本当は話していいのかわからなかったけど、でもセブルスはホグワーツでダンブルドア先生の次に頼れる存在だから。

それに今のレギュラス、さんのこともわかっているから、きっと力になってくれるんじゃないかなって。

「あいつは、一体どうして死んだんだ。…噂では闇の陣営の者に殺されたというが、そうとは思えん」

「…私を置いて、何かを成し遂げるって言って…、それっきりだった記憶があるよ」

私にはどうしてレギュラスさん…あ、前のレギュラス?が死んでしまったのわからない。だって何も教えてくれなかったし、ついて行かせてもくれなかったし、…帰ってきてくれもしなかったから。

「一番知ってるはずのクリーチャーは私にほとんど教えてくれなくて、寂しくて、悲しくて、だから、私、」

「…いい、言うな」

セブルスが私の頭をくしゃくしゃと撫でた。またか。セブルスは存外私のことが好きなんじゃないかと思う。無論友情的な意味で。セブルスはきっと、リリーのことをずっと愛しているんだろう。

「そうだ、夏休みが明けたらあの子、入学するんでしょ?」

「…別にどうともしないだろう。「生き残った男の子」だろうと、ただの子供だ」

「ふぅん…私、見たことないからわかんないけど、ジェームズに似ててもいじめないでね」

へらりと笑うってみると、セブルスはすごく凶悪な顔をしていた。例えるなら、シリウスやジェームズと対峙した時のような、そんな般若みたいな顔をしている。ま、まぁ仕方ないのかな、うん。

「部屋に帰るのか」

「うーん、気分がね、気分が乗らないんだ。スリザリンが優勝したから、なんか複雑なんだ」

「自分の寮の優勝くらい喜びたまえ」

やーだ、と笑って、地下への階段に足を運ぶ。気分は少しだけ元に戻ったけれど、やっぱり宴に出るほどの気分じゃないから。階段を下った先の談話室はひんやりとしている。夜効果&地下室効果かな。

するすると自室へ入ると、今日も今日とて毛玉が私のベッドの上で寝っ転がっていた。の、に何故か私が入ってきた途端にダッシュで部屋から出ようとするものだから、びっくりして首根っこを掴んでしまった。

「ふにゃぁ」

「明日から夏休みなんだから部屋から出ないの!家に帰ったら庭とかで遊んだらいいじゃない」

不満そうにふぎゃあ、と鳴く毛玉を見て、もしかしてレギュラスさんに会いたいのか、と思ってしまった。いや、湖であった時に、やけに懐いているようだったし、レギュラスさんも何故か毛玉の名前を知っているように思えた。私が飼い主だなんて知らなかったようではあるけれど。

「…レギュラスさんに会いたいの?」

みゃっ、と短く鳴いて手足をばたつかせる。そういえばまだ首根っこを掴んだままだったから、放してあげると、閉まっている扉を前足でかりかりと掻いた。私の考えの通りなのかもしれない。

「それなら毛玉と私、同じだね」


(夜は過ぎていく)