ぱくぱくと口が開いたり閉じたりを繰り返していた。クィディッチなんてそう面白いものじゃないと思ってたんだけど、ぐるんぐるんと頭の中でいろんな情景が浮かぶわけで。


私がどこにいるかといえば無論クィディッチの競技場なんだけど、今はハッフルパフとグリフィンドールの試合中。

選手が箒に跨って飛んでいたり、クアッフルを投げたり、ブラッジャーを打っていたり、それから逃げていたり、飛び回ってスニッチを探している両チームのシーカーがいたり。

いや、そんなことは結構どうでもいいのかもしれない。家族でクィディッチを見に行ったことは何度かあるけれど、興味はなくて真面目には見てない。

どちらかというと、スニッチがどこにあるかの見当をつけるのが好きだったくらい。試合自体としては、選手がブラッシャーで墜落したなぁとかをぼーっと見てたくらい。

自分がシーカーより先にスニッチを見つけられたときは嬉しいし、シーカーが先に見つけたときはあんなとこにあったんだ、なんて感心していたりした。見る観点が違うといっても過言ではない。


でも今日はなにか違う。試合を見て何故か頭の中に浮かぶ情景は懐かしいもので、それは「前」の記憶。

飛び回っていた緑色のユニフォームを着たシーカーがいきなりすごい勢いで進んで、ぐんぐん上へあがって、手を伸ばして金色のスニッチを手に掴む。

さらさらしていそうな艶のある黒髪が風で遊ばれて、目元がよく見えない。口元は嬉しそうに弧を描いていて、それでも気取った感じはない。

爽やかで、謙虚で、ほんの少しだけ物憂げ。

「…レギュラス」

今目の前で繰り広げられている試合とそれが重なる。赤色のユニフォームを着た黒髪のシーカーがひゅん、と空を切って飛ぶ。

黄色のユニフォームのビーターが彼に向ってブラッジャーを打ったけれど、予想してたみたいにするりとそれを避けてしまう。

上へ上へと飛んでいく彼に遅れて、追うように黄色のユニフォームのシーカーが飛ぶ。彼とは違って、繊細さのない大回りな箒捌きで上昇していくけど、追いつけない。

そうしているうちにぐっと手を伸ばす。掴む。試合終了の笛が高らかに響いて、観客と選手、みんながどっと歓声を上げる。

選手たちが地に降りていく中、赤色のユニフォーム…まあつまりグリフィンドールの選手である双子が最後に降りてきたシーカーに飛びついて、彼が地面に押し倒される。楽しそうな声。笑顔。


胸がどくどくと心臓の音を響き渡らせていた。グリフィンドールのシーカーは言わずもがなレギュラスさんだ。ぐるぐる回った情景でスリザリンのシーカーを務めていたのは、夢でも見たレギュラス。

やっぱり似すぎていると思う。彼はやっぱり本当に私と同じで「前」があるんじゃないかって、セブルスが言っていた「お前も」の意味を噛み砕きながら考える。

これは私の個人的な願望にすぎないのだろうけど、そうであってほしいなんて思う私が、私自身の視界のそこらかしこで泣いているように思えた。

ふいにここにいてはいけない気がして、観客席から立つ。寮に帰ろう。階段を駆け下りて、競技場から飛び出す。競技場を出る前に、例の双子の名前を呼ぶ彼の声が聞こえた。

城に向けて無心で走っていたのに、そのうちに何してるんだろうって無気力になりかけて、唇を噛んだ。バカだ。うましかだ。私は、本当に。

振り返ると競技場が佇んでいて、どことなく私を見下ろしていた。強い風が私の体にぶつかってぶるりと身震いをした。寮に帰ろう。きっと毛玉は部屋にいてくれてるはずだ。



(好きなひとの面影と、)