あっという間にクリスマス休暇は過ぎてしまって、私はもうホグワーツに帰ってきていた。

テストテストと思っていたけれど、よくよく考えればまだテストには数ヶ月あることに気付く。年って怖いね!いや、まだ十一なんだけど。でも「前」から数えるときっと三十くらいは…いや、年の話は止めよう。虚しくなってくるから。


自室のベッドにころりと転がる。毛玉がなうん、と鳴いて大きな欠伸をひとつした。

よくもまあ、九月から今まで特定の友人も作らずにやってこれたと思う。セブルスやハグリッドなんかがいるからだろうか。

それとも、レギュラスさんの存在、とか?

ごろんと寝返りをうって、目蓋を閉じる。レギュラスさんの事を思い出せたなら、レギュラスさんも私のことを真っ直ぐに見てくれるんだろうか。彼だって、「前」の私を知っているような素振りを見せるのに、私だけつらいのは不公平だ。


もう少ししたら、クィディッチの試合があるはずだっけ。レギュラスさんはシーカーをやるんだった。見に行くべきだろうか。ハッフルパフとグリフィンドールなら、きっとスリザリンの生徒はあまり見に行かない、かな。

ふいに目蓋を開けてみると、カエル色が二つ私の目を覗き込んでいた。

「っ…毛玉か、びっくりさせないでよ…」

少しも反省した様子も見せずに、なおん、と鳴きながら私にすり寄ってきた。なんだよこいつ、可愛いじゃねーの。許す。全力で許す。背中を撫でてやれば、ふぁさぁっと毛の長い尻尾が揺れた。

えっ、不満でもあるのこの子ったら。

「なぁうぅぅ」

「ちょ、」

ぴょおん、とベッドから飛び降りて、しまっている扉をかりかりと引っ掻いている。…開けろって?でも今は消灯時間をとうに過ぎてるから、出来れば出ないでほしいんだけ、ど。

「…どうしても出たいの…?」

「なぉう」

こちらの目を見ながら不満そうに鳴いた。いきなりどうしたんだろうか、この子は。とりあえずベッドから起き上がって、扉を開けてやる。隙間からするんと外に出て、またこちらを振り返ってなぉうと鳴いた。

「…えっ、付いて来いとか言ってんの。なんで、ちょ、あ、毛玉!」

そそくさと駆け出した毛玉を追いかけて、スリッパが脱げるんじゃないかってくらいのタイミングで自室を出た。


談話室までならこの時間でも大丈夫なんだけど、毛玉は容赦なく談話室を抜けて寮を出やがった。許さんまじで許さ…やっぱり許す。

「あ、れ…毛玉ー?」

寮から出て、階段をのぼり終えたところで毛玉の姿が見あたらなくなった。どこだろう。というかここでフィルチとかに見つかるととてつもなく厄介でな?

あ、でも「飼い猫を探してました」って言ったら情状酌量してくれそう。フィルチはミセスノリスを大事にしてるからね。

 * *

きょろきょろと見回しながら、そろりと歩く。夜のホグワーツまじホラー。毛玉は黒いから暗闇に紛れてしまっているんだろう、全く見当たらない。

あの子私に付いて来いって言いたかったんじゃないの?いなくなってどうするんだ。

ふいにみゃおん、と猫の鳴き声。

ミセスノリスではないはずだから、多分毛玉じゃなかろうか。鳴き声がした階まで、動く階段を待ちながら上がっていく。


「…図書館」

しかも扉が開いている。ここあたりに毛玉がいるはずだ。そろりと身体を滑り込ませて、図書館に侵入する。

図書館はやけに広いから、毛玉の名前を呼びながら慎重に探していく。なぉん、と鳴く声と、かしゃんという音を聞いて、首を傾げながら音の方へ近寄る。


「毛玉…!って、ここ閲覧禁止の棚じゃないか…ん?」

毛玉を抱き上げて、目の前のロープを見ながらそう呟いていたら、そのロープの先、つまり閲覧禁止の棚の前にランプが落ちていることに気付く。

さっきの鳴き声以外の物音はこれだろうか。なんだか、別に人が居たみたいだ。…その人がフィルチとかに見つからないことを祈ろう。


「毛玉、どうしてあんなとこまで」

「なぅ」

不満げな顔で出たばかりの図書館の中を見つめる毛玉の頬をつつきながら図書館を後にした。これからスリザリン寮のある地下まで戻るのかと思うと、なんだか憂鬱。

「ホグワーツの探索したいならお昼にしてね。困るのは私なん…っ!?」

階段を下っていた時に、下から上ってくる土気色の顔だけが見えた。よく見ればそれは、全身黒尽くめの通称育ちすぎた蝙蝠、セブルス・スネイプの姿だった。

正直言って心臓が止まるかと、止まったかと本気で思った。

「こんな時間に散歩ですかな、Ms.マルフォイ」

「…あ、いや、その…」

ファミリーネームで呼ぶあたりに嫌みを感じる。夜中の見回りはフィルチだけじゃないのか。

「猫、この子を探してた…いや、探してました」

「躾も出来ないのならばケースに入れるんですな。スリザリン五点減点」

「ぐぬぬ…減点の鬼だ」

私の言葉にふん、と鼻を鳴らすセブルスに、またうぐぅと悪態をつく。あ、でもこの様子だとさっき図書館にいたであろう人はまだ見つかってないんだろう。

「これ以上の減点が嫌なら早いうちに寮に帰るといい」

「はーい…って、あ、毛玉ってば!もう!」

私の腕からぴょおんと毛玉が飛び出して、黒い被毛の姿はすぐに見えなくなってしまった。

どうなの、これ。

「…寮に戻るね」

またセブルスが鼻で笑った。ぐぬぬ。毛玉はいつからあんな放蕩息子ならぬ放蕩猫になってしまったんだろうか。



(飼い猫の、行方)