バレた。
やっちまった。
オワタ。

頭の中でぐるぐると三つの言葉が回っていた。どうしよう。いや、別にバレて悪い訳ではないのだけど、私覚えてないし、くっ…どうすりゃいいの…。スネイプ先生怖い。

「お前もなのか」

「え、セカンドライフの人?」

「…まだ会っていないのか」

頭上をクエスチョンマークが飛ぶ。スネイプ先生は違うとして、じゃあ誰なんだろうか。私も知っている人?

「お前たちならすぐにでも…ああ、寮が逆か」

誰のことを言っているんだろう。というより、私まだスネイプ先生を知らない。いっそのこと聞いた方が早いかもしれないけど、聞いちゃっていいのだろうか。あと次の授業始まって…ないよね。みんなティータイムだね。知ってる。


「あのですね、私先生のことわからないんです。覚えてないっていうか…」

さらりと口に出すと、スネイプ先生が黒い眸を見開いた。ひぃ!そんな目で見ないで!だってわからないのはしょうがないだろ。どうしても思い出せないのだから。びくびくと震えていたら先生はわざとらしく溜め息を吐いた。嫌みったらしいな、おい。

「我輩のことはセブルスと呼んでいた。魔法薬学がわからないから教えてくれと、図書館で特訓に付き合わされたことが何度もある。騒がしいあの二人から庇ってもらったこともあるが…あれはお前が勝手にやったことであり、我輩は何も言ってはおらん」

「…セブ?」

セブルス。いじめてたのは、シリウスと…じぇ、ジェニファーだっけ。いや違う、ジェームズだ。セブルスには魔法薬学についてみっちり教えてもらって…、あ!

「リリー!リリーとピーター、それにリーマス!五人で勉強会したよね!私とピーターがわかんないから、セブとリリーとリーマスが教えてくれて」

…セブルスがあの時リリーに「穢れた血」って言って、それで。何度も謝ろうって言ったのに合わせる顔がないって。

「ねぇ、リリーたちは今どうしてるの?」

学生時代の記憶はある程度思い出せた。卒業する所からひどく曖昧で、やっぱり自分が自殺した記憶なんてものはない。あと、昔から覚えていたスリザリンの恋人のこともさっぱり抜けている。

「…死んだ」

「え」

「闇の帝王を殺された。ポッターも。ブラックは闇の帝王を手引きしたとしてアズカバン行き。ペティグリューはブラックに殺された。ルーピンは…どこかの森の小屋に住んでいるのだろう」

どういうことなの。

死んだ?殺された?アズカバン行き?ちょっと意味がわからない。リーマス以外、みんなまともに生きてないってどういうこと。闇の帝王。待ってよ、どうしてそんなことに。

「いつ…なの?」

「今から…九年前になるか。お前は二歳だろう。ハロウィンの日、秘密の守人だったブラックが手引きして、闇の帝王がポッター一家を殺害した。止めようとしたであろうペティグリューはブラックに。指一本しか残っていなかったそうだ」

頭がくらくらした。そんな馬鹿なことがあってたまるかと思ったけれど、セブルスが嘘を言っているようには見えない。それよりも二歳のハロウィンの日。あの、夜中に父上が帰ってきた日だ。会話がよく聞こえなかったけど、あれは、もしかして。いやまさか、そんなわけない。

「それ以来闇の帝王は姿を見せない。死んだとも言われているな。…信じられん話だが、ポッター家の一人息子である赤ん坊が退けたのだ」

「それ、その子は?」

「リリーの妹夫婦の家だ。マグルと同じように育っているだろうが…来年には我が校に来るだろう」

現実離れした話が続いてわけがわからなかった。ジェ…ジェームズとリリーの子供は来年入学、つまり私の一つ下。「前」の私が生きているうちに産まれてないのだろう。

「そろそろ行け。次の授業があるだろう」

「え、あ。…セブ?」

「…なんだ」

「忘れててごめんなさい。あと、なんか死んじゃって…ごめんね」

へらりと笑うとセブルスの眉間のシワが深くなった。忘れられるのは誰だってつらいから。「前」の私がなんで自殺したのかなんて今の私にはちっともわからないけれど、たくさん考えて決めたんだろう。

ふいにぐるりと頭に巡るのは、新聞の切り抜きが飾られた部屋。切ない気持ちがむくむく膨らむ。


「セブは、無理しないで」

振り返らないまま準備室を出る。どんなに学生生活を思い出そうが、今の私は全力で一匹狼である。まじぼっち。



(記憶のかけら)