九と四分の三番線。うん。思い出した。

「前」はなんで柱に走らなくちゃいけないのかと頭を抱えた。マグルの父と母は「魔法使いは凄いのね」と言いながら私をキングズクロス駅に放置した。

泣きそうだった私に、いくつか年上の赤毛の先輩が「柱に走るんだ」と教えてくれたものの、明らかに柱は柱。「意味わかんないびゃあああ」と泣き出した私の背中を、強引に押して柱の向こうにやったあの赤毛の先輩を私は忘れない。無論悪い意味で。

名前は今の所覚えていないけれど赤毛だったこと、学生時代にマグルについてよく聞いてきた騒がしい奴だったことを思い出した。

荷物の乗ったカートを押して柱に向かった。するんと景色が変わり、ホグワーツ行きの赤い列車がホームについていて、懐かしい感じがした。


「ポラリス、お前はスリザリンに入れる存在だ。我がマルフォイ家の者は皆スリザリンに――」

父上黙れ。

「私、ポラリスならグリフィンドールに入る可能性もあると思うわ」

母上愛してる。
というかやっぱり母上気付いてるよ、ね?絶対そうだよ。「前」の私グリフィンドールだもんね。勇気とかないと思ってたのにね。びっくり。

「姉上、僕も来年スリザリンに行くから!」

ドラコは本質的にスリザリンだもんね。仕方ないよ。

「とりあえず、いってきます父上、母上、ドラコ」

私いい娘だよね。

* *

列車に乗り込んで、誰もいないコンパーメントを発見。とりあえず手荷物を置いて座って、ケースから毛玉を出して戯れていようと思う。くそ…こいつ可愛い…。

窓から見える景色に色々と思い出すものがある。家にいきなりやってきた女の人が手紙、ホグワーツの入学許可証を持ってきた。ホグワーツの教師だというその先生に、私は何か魔法が見たいとせがんで、仕方なく先生が見せてくれたのは今でいう変身術だった。いきなり猫になった先生を見て、家族三人でぽかんとしたのを覚えている。

確か、先生の名前は、ええと…わかんない。まだ教師をしているのなら会えるだろうけど、やっぱり私がポラリス・フォンダンだと気付かれるんだろうか。ちょっと怖い。

毛玉がうなう、と鳴いて欠伸をして、だんだん私も眠くなってきた。ホグワーツにいつついてもいいように先に着替えておこう。

* *

「おーい」
「寝てるな」
「本当だな兄弟」

何か声が聞こえる。なんだ。誰かいたっけ。膝の上に置いてある手は毛玉に触れている。みゃおん、と毛玉が一鳴きする。

「――朝?」

「いや、学校だぜ?」

「ようおちび。お目覚めはいかが」


学校という言葉にガタッと立ち上がる。膝にいた毛玉は瞬時にケースに戻り、難を逃れた。寝過ごし?いや、違う。ついたんだ。

「お、起こしてもらってどうもすみません、ありがとうございます!」

「いや、前通ったら見事寝てるから。なあ兄弟」

「俺たちが起こしてやんないとって思ってな!」

見分けのつかない赤毛の人が二人。双子か。

ぺこりと頭を下げて、それじゃあ、と毛玉の入ったケースと手荷物を持って列車を出た。あの赤毛の二人は先輩だろうけど、私は一年生だからさっさと行かないと。
同じように黒いネクタイをした子たちが何人か見えた。良かった、まだ大丈夫だ。





(イッチ年生!)