オリバンダーの店を出て、ちょっと周りの目に警戒しながら横丁を歩く。教科書を見に行った父上とドラコはわかるとして、母上はどこにいるのだろうか。
「あ、母上!」
何かのお店から出てきてキョロキョロしている母上を発見。手に持っている箱は一体。
「ああポラリス、入学祝いにペットを、と思ったの。あなた、猫は好き?」
「はい。猫は可愛いから」
良かった、と差し出された箱を受け取って開けると、ケースに入った黒いもしゃもしゃした毛玉がいた。なにこれ可愛い。
「ショーケースでも丸まってて、なんだか気になってね。ミックスなんだけど可愛いでしょう?名前は#!が決めるのよ」
ごろりと寝返りを打った毛玉が目を見開いてこっちを見た。くそう。可愛い。見事なカエル色がこちらを見てみゃあんと鳴いた。
* *
家(一応家と表しておくけど明らかに屋敷)に帰ると、ドラコがうずうず、というような感じの眼でこちらを見てきた。お目当ては私の持っている箱だろうか。
「姉上、」
「うん。抱いてみる?」
箱からケースを出して、そのケースから例の毛玉を出す。不服そうになぅんと鳴いたのがやけに可愛い。本当は抱き締めてゴロンゴロンしたいのだけれど、腐っても私はお嬢様である。そんなことしてはいけないわけだ。
「うん!」
はい、と渡すと、ドラコがそろりと手にとった。子猫ではないにしろ、まだ小さめな毛玉を割れ物のように抱いているドラコはとりあえず可愛い。
ドラコはもう十歳になる。家族の前では持ち前のファミコン(ファミリーコンプレックス、家族大好きである)で甘えたというか単に可愛いんだけども、内弁慶ならぬ外弁慶なのが玉に傷だ。
ビンセントくんとグレゴリーくんを引き連れて威張ってたりするのは見ていられない。姉として情けないと思う。
「姉上、名前は決めたの?」
「毛玉」
「!?」
「可愛いでしょ」
無論即決で決めた。だって初対面から毛玉だったから仕方ないだろ。ドラコは納得いかない様子で毛玉を持ち上げてぶらぶらしている。
あ、そういや母上は「前」の私と今の私がそっくりだと気付いているのだろうか。名前をつけたのは母上だから、何かしらわかってやっているような気がしてならない。父上ってかルシウスの奴は、私なんて覚えてないだろうからよしとしよう。
しかし母上に直接聞くのはちょっとなあ。もう少し大きくなって、あと記憶の引き出しがいくつか開いて、色々思い出したら聞こう。それがいい。
「姉上、本当に毛玉にするの…?」
「私に二言はない」
毛玉がなーうと鳴いた。
(猫もらいました)
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