朔麻『実はボーカル引退した後、Neogymのリーダーだった愛吉さんにドラム教えてもらってて。だからってまたバンド組もうとかは全く考えてなかったんですけど、やっぱ音楽バカっていうか…ダメですね。何かの拍子にステージに上がりたい!って思っちゃうんですよ(笑)』

ーやはり自分が輝けるのはステージの上しかない!と
朔麻『んー…ドラムに自信があったわけじゃないんだけど、メンバーと演奏出来たら楽しいだろうな〜ライブやりてぇな〜とは叩く度に思ってましたよ』

ーHYENAに加入したきっかけは?
朔麻『それは本当に偶然というか。その日たまたまお世話になってた新宿にあるスタジオの近くまで来たので顔出しに行ったんですよ。受付で話してたら、ガイに声掛けられて』

ー朔麻さんが声掛けられた側なんですか!?
朔麻『そう(笑)普通逆でしょ、俺がこのバンド勢いあっていいわーって声掛けたと思うでしょ。違うの、ガイってすごいよ、いきなり無言で近づいてきて、入りませんか?って言ってきたからね』

ーどれだけ自信あるんだ、と(笑)
朔麻『正直俺のこと知らなくてとりあえず声掛けたんだろうなーと思って』

ーいやいやそれはないでしょ!
朔麻『めちゃくちゃ驚いたし、でもすごい嬉しくて、いいよって返事したけどドラムもベースもいません!状態で(笑)』

ー入る決断をしたのは?
朔麻『とりあえずなんか聴かせてよって無茶振りしたんですけど、良かったんだろうね、何かが。すごいふんわりしちゃうけど、良いって思ったんだよね』

ーベースにマコトさんを加えて5人になり、復活ライブも無事終え…
「ねえちょっと…恥ずかしいからやめてよ」
持っていた雑誌を半ば無理矢理閉じられる。照れ臭そうに頭を掻きながら事務所のソファに腰掛ける人こそ、華々しく表紙巻頭を彩るうちのドラマーの朔麻さんだった。
「あれ、今日は取材ないの?」
「昨日でラスト、でもネットに掲載するコラム書いてって言われちゃってさぁ」
復活ライブが大成功を収めてから、朔麻さんは雑誌の取材に引っ張りだこで今日は久々に顔を見た気がする。さすがは幻のボーカリスト、今属しているバンドが弱小バンドだろうが、朔麻さんが音楽業界に帰ってきたっていう事実だけでこの界隈の関係者やファンは大騒ぎだ。今や本屋に並ぶ音楽雑誌の殆どに“朔麻復活”の文字が並んでいる。何度も言うが見縊っていたわけじゃない。この、人を選ぶジャンルの僅かな活動期間でこれほどの支持を集めた人の全盛期を、俺は知らない。それが問題だった。俺が知った時にはもう、引退目前だったから。
「朔麻さんってなんか、すげー有名人」
嫉妬、というと違う気がしたけど、他になんて言うのかわからない。同じバンドメンバーの筈なのにやっぱり遠くて。あの日復活ライブで圧倒的な存在感を見せつけられて、むしろ遠ざかったような気さえする。多分どんなに足掻いてもこの人と同じラインには立てないんだろう。この先も俺の衝動的なやる気を駆り立てる原動力にはなるものの、追いつかない。絶対に追いつけない、越せない。
「君が越すんでしょ、これから」
そんなことを思っている矢先に軽々しく無茶振りをする彼は、なぜだか強気な笑みを浮かべていて子どものようだった。もう俺は過去の人だから〜なんてかっこつけてるけど、この人が言うとただただ重く感じてしまう。引退を誰よりも悔やんだのは、きっと本人なのだから。
「朔麻さん、また「特別に思ってるよ、ガイのこと」
それ以上言わず、それ以外問わず。特別の意味を考える間も無く
「メジャー、連れてってくれるんでしょ」
って言うと甲子園連れてってみたいだねって笑いながら、起動したパソコンをおもむろに触り出す。聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で「はい」とだけ返事をした。カチカチと無機質なクリック音だけが響く部屋で、俺は足元しか見ることが出来ない。また、の続きになんて言おうとしたのかもう忘れてしまった。朔麻さんが叶えられなかった夢を担いだ事の重大さを俺は今になって知った。



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