先にこちらを読んでいただけるとわかりやすいかと→



「…死にたい」

ああ、理由を聞くのもめんどくさい。どうせ、

「最近鬼道さんとクソ馬鹿不動が仲いいんだ」

…ほら、当たり。

「知るかそんなこと」
「サイテーだなアンタ。この前は俺がおまえの相談に乗ってやったのに」
「乗ってほしいと言った覚えはないな」
「…ウッゼ」
「ミートゥー」

きっとこんな会話をしてても、こいつの頭の端(いや、常に真ん中か)には鬼道がいるんだろう。ほんとどんだけ物好きだこいつ。

「なあー、かーぜーまーるー」

ねちねちした声を出すこいつに腹がたつ。
蹴りを一発入れてやろう。思って構える。

「いや待て風丸。曲がりなりにも俺たちはサッカー選手だ日本代表だ、おまえのキック力はきっと一般男性より強い。そしてそんな足で蹴られたら俺は痛い」
「そしてちなみに俺のキック力はおまえよりも強い」
「は、なに言ってんの鬼道さーんここに馬鹿がいます。明らかに俺のほうがキック力強いのに、俺のほうがーとかほざく馬鹿がいます鬼道さーん」

一気にしゃべった佐久間は、言いながら鬼道を捜しているようだった。ぷ、残念だったな。

「ただ今おまえの大すきな鬼道さんは、おまえの大嫌いな不動クンとラブラブ中でぇーす」

って言っても、ふたりはただ話してるだけだけど。
佐久間はとんでもないくらい大きなため息。

「俺に蹴られてその記憶消すか?」
「…痛くないならしてくれ頼む」

痛いに決まってる。ほんとに馬鹿なんだなこいつ、うわ、気味悪い。

「……はあ」

また鬼道のほうを見て、佐久間は本日何度目かのため息。
じゃあそっちを見なきゃいいのに。

「死にたい、風丸」
「…おまえほんとに鬼道すきだよな」
「自覚あり、自重はしない」
「あっそう」

佐久間はそれから、あーとか、うーとかほざくから、だから俺は、

「じゃあ一緒に死のうぜ」
「……へ?」
「俺がおまえと一緒に死んでやるよ」
「馬鹿じゃね、アンタ。…ああ知ってたわ」

いきなりの真面目な声。銀の髪から覗く左目が、やけに綺麗に見えた。死んでも言ってやらないけど。

「アンタは愛されてるから、死んじゃだめだろフツー」

さっき俺に悪態を吐いたときと同じ声、同じ顔、同じ空気。
なに、…俺が愛されてる?

「誰に?」
「自覚なしかよ」

マジでか、と小さく呟く佐久間。
自覚ないけど。ついでに自重もしない。

「アンタが一回堕ちたあと、またこうやって復帰できてるのは、アンタが周りに愛されてる証拠だろ馬鹿」

いつのまにか禁句になっていたその俺の話題を、それはもううざいくらいナチュラルに持ってこられた。
なのに、全然いやじゃないのはなんでだよ、

「…おまえだって、ペンギン一号打ちまくったくせに」
「あれは鬼道さんのためだからいいんだよ。あと『皇帝』付けろ、『皇帝』。皇帝ペンギンいちごーう。かっこいいねー!」
「おまえ『死にたい』とか吐かしてるからキャラ変わってきてるぞ」
「アンタしか知らないからいいんだよ」

あっそ、とできるだけ深く考えないようにして言って、佐久間から目を離した。
なんとなくだけど佐久間の目線の先、鬼道を見る。最近はお馴染みになりつつあるこの光景。鬼道と不動。でもべつにこれは。

「べつにただ話してるだけだろ」
「いつあのクソ馬鹿不動が鬼道さんの魅力に気づくかわからない。ああ死にたい」

おまえは愛されてないのか、と出した声は自分で思った以上に弱々しかった。
『愛』というワードが気恥ずかしくて照れて、らしくない。

「俺は鬼道さんに愛されたい」
「あっそ。で?」
「だけど俺、いま死にたいけど死ねない」
「…なんで」
「アンタが死ぬまで、俺がアンタを愛さなきゃいけないからな」

じゃないとアンタ死にそうだから。
今度はもうこのなんでもない空気が気持ち悪かった。

「―――最後まで俺が愛してやるからな」
「…じゃあ俺も、」

まともに目が見れない。
だけど顔を逸らすのは格好悪いから、だから銀色の髪を無理矢理、目に入れた。

「じゃあ俺もおまえのこと愛してやるからもう、死にたいとか言うなよ」
「………わかった」

いまみたいにこういう素直な佐久間なら、嘘でも愛せる気がした。























20101210
佐久風目覚めそう


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