※大学生設定
俺からキスをしたら、豪炎寺はどんな反応をするのだろう。
大学生になって、俺たちの身長差はますますひらいた。ひらいてしまった。
プラネタリウムを見に行こうかと豪炎寺に誘われて、行ったところは大はずれ。人がまったくいない、立ち見しなければならないところ。頭上でただ単に天体がゆっくり回っているだけ。辛うじて用意されていた手摺りに体を預けながら、俺はそろそろ飽きていた。
だから。だからあんなしょうもないことを考えてしまったんだ。
一度考えたら、俺はもうだめだった。豪炎寺の唇ばかりに目がいって、それだけで顔が紅く染まる。暗いから、豪炎寺には見えてないだろうけど。
「どうした?」
星を見上げていた豪炎寺が、俺の視線に気づいて下を向く。俺と目を合わせると、やはり俺は唇を意識してしまって、すぐに目を反らした。
「…っなんでも、ない」
「本当か?」
「いや…、……なんでもない、わけではない…、けど」
「けど?」
そういう余裕なところ。俺はときどきうらやましいと思う。
「豪炎寺…っ」
「どうした?」
とうとう俺は覚悟を決めた。豪炎寺に、全力で背伸びする。
「…なんだ?」
届かない。たぶん俺がここで、あごを精一杯上げたとしても、届くのはせいぜい豪炎寺のあごの下。ああ悔しい。
「もっと近くで星が見たいのか」
言って豪炎寺は俺を持ち上げようとする。
「抱っこしてやろう」
「いい!いや、いらないから…!」
ばたばたと暴れると、豪炎寺はすんなり俺から手を離してくれた。もう一度、向き直る。
「悪い悪い」
言いながら、豪炎寺が綺麗に微笑んだから、とりあえず俺はいまの行為を許すことにした。
「少し…」
これを言うのは、男としてどうなのだろう。けれど俺は。言うと決めた。
「豪炎寺。少し屈んでくれ」
疑問を浮かべながら、それでも豪炎寺は屈んでくれる。
「なんだ鬼道。小さい子みたいだな」
「…うるさい」
言った途端、俺は右手で豪炎寺の両目をふさぐ。豪炎寺が驚いて、小さく声を上げた。だけど気にせず俺は、自分の口を豪炎寺のそれに触れさせた。
「…ん」
触れていた時間は、論理的に言うととてつもなく短かった。だけど、俺はそれを長く感じたし、満足だった。
「きどう、おまえ」
「なにも」
言わないでくれ。恥ずかしかった。目をふさいでいたし、豪炎寺にとってはなにがなんだかわからなかったのかもしれない。できれば、わからないでいてほしい。
なにも言わないでくれ。言おうと思ったその瞬間。豪炎寺は、俺が一番求めていない言葉を発してしまった。
「いまおまえ…。キス…、したのか」
「……っしてない」
ああ恥ずかしい。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。ここがプラネタリウムでよかった。暗闇だから俺の顔は見えていないはず。
「しただろ?」
「してない…っ」
「したよな?」
「してない…」
「なあ鬼道」
「…なんだ」
「……したよな」
「……………した」
ああもう。結局最後はうまく丸め込まれる。豪炎寺にはなかなか勝てない。何年付き合ってるんだ、俺たちは。なんでこうなる。
「そうか…。鬼道」
「……なんだ…っ」
「もう一度…」
言わせてはならない。豪炎寺の言葉の続きは安易に予想できた。何年付き合ってると思ってる。
「豪炎寺、」
「もう一度、キスしてくれないか」
そして俺は、やはり言わせてしまうのだ。
「ごうえ、」
「鬼道」
「…なんだ」
「可愛い。キスして」
うるさい。思うのに俺は、それが言えない。豪炎寺にそう思われるのが、不本意だけど嬉しくて心拍数が上がる。
「か…」
周りからブー、と音が聞こえる。プラネタリウムが終わる合図だった。徐々に辺りが明るくなる。
「帰るぞ、豪炎寺…!」
俺は豪炎寺を置いて歩きだす。プラネタリウム会場を出たところで、豪炎寺に腕を掴まれた。
「鬼道」
振り返る。豪炎寺が笑った。
「鬼道。顔真っ赤」
「知ってる!」
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私の豪鬼はパターンです