風丸のようすがおかしいのは、きっと俺の思い違いなんかじゃないだろう。

「風丸」
「…な、なんだよ」
「おまえいま、」

機嫌が悪いだろう、と言うその最初の「き」の字の形で口が固まる。
俺の顔を見た風丸の目は、いま確実に俺を睨んだ。………あれ。俺、なにかしたか?

「機嫌が悪く、ないか?」

当初のものより幾分か優しくなったその言葉を、できるだけ優しい声で言う。
風丸をこれ以上怒らせないように、慎重に言葉を選んで。

「べつに機嫌悪くなんてない」

だけどほらもう確実だ。
風丸は俺に対してなにか腹をたてている。
目が合った、と思えば、すぐにそっぽを向かれる。
正直少し、いやだいぶ傷つくんだが。

「おい風丸、どうしたんだ、」
「どうもしないよはいこれどうぞ」

言って風丸が差し出したのは、色彩豊かな封筒たち。
いや、『差し出す』では語弊がある。正確には、『押し付ける』のほうがいいか。
胸の辺りに押し付けられた封筒に、俺が手を出せば、風丸はすぐさま自身の手を引っ込める。
だけど見えた。俺に渡すとき、おまえの手は震えていた。本当になんなんだこれは。

「風丸…?」
「さっきクラスの女の子たちにもらった豪炎寺に渡せって言ってた風丸くんは豪炎寺くんと仲いいからよろしくって言われただからどうぞ」

早口に喋る風丸は、完全に俺を見ないで、ずっと下を向いていた。
綺麗な空色から覗く頬には、少し赤みがかっていた。ああもう、本当にこいつは。

「これは…」
「見たらわかるだろラブレターだろばか豪炎寺…! 俺、豪炎寺と付き合ってんのに…」
「嬉しい…」
「は…?」
「嬉しい、風丸」
「なん、で?」

風丸が顔を上げる。上気した頬がだんだん治まっていくのがわかった。

「ラブレターを貰ったことがじゃない。おまえがやきもち妬いてくれた」
「な…っ」
「俺、愛されてるんだな。おまえに」
「なに、言って…、べつに妬いてなんて、」
「わかってるよ」

強引に風丸の腕を引いて、胸に抱きしめる。
風丸は怒っているんじゃなくて、ただやきもちを妬いていただけ。
ああ嬉しい。
風丸。俺いま本当に、

「嬉しい」
「……あ、そ…」
「嬉しい」
「…だからなんだよ…、」
「本当に可愛い」
「…可愛くない!」

抱きしめると顔が見えなくなるのが残念だ。だけど俺は想像できる。
こいつの顔はいま真っ赤で、きっと耳まで赤くなっていて。

「おまえだって、やきもち妬いてくれたらいいのに…」
「俺が?」

風丸は諦めたのか呆れたのか、俺の腰に軽く手を回して顔を上げる。
いまだに少し赤みを持つ頬がどうしようもなく愛しくて、触れようと手を延ばせば、片手で軽くあしらわれた。

「風丸」
「なんだよ…」

できればずっと黙っていようと思っていた。隠し通してこいつと一緒にいようと思っていた。
だけど無理みたいだ。
なにか喋り出しそうなその顔を、どうしても待っていられなくて、もうなにも耳に入らない。一度決めたらたまらなく言いたくなってきた。もう待てない。

「俺は妬かない。おまえに愛されてる自信があるし、おまえが他の男を見れないように、おまえを愛してる自信がある」

きっと俺たちは、愛していると言うにはまだまだ子どもで、だけど他に言葉が見つからないんだと思う。
そういうところもまだまだ子どもで、だけどだけど。ああ本当に、他に言葉が見つからない。

「なに、言って、」
「だから俺は妬かない」

風丸の腕が強くなって、対抗心じゃないが、俺もいっそう腕に力を込める。

「…可愛い」
「うううるさい…っ」


















20100611
だけど風丸はそんな豪炎寺が可愛い


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