06.

「おれね、へーすけが好きだったんだ」


知ってます。


とは言えず、固まった私を見た尾浜君は苦笑した。おそらくその驚愕が同性が好きだと言ったことに対してのものだと思ったのだろう。相談したいことがあると言った尾浜君と、とりあえず近くの公園のベンチに座ったら、この言葉だ。というか、


(なんというカミングアウト…)

「えと、ごめん。…軽蔑した?」


固まったまま抜け出せない私を見た尾浜君が気まずそうに言うので、私は慌てて首を振った。よかった、と嬉しそうに少しだけ笑った尾浜君を見たら、知っててしかも君たちを見てのほほんとしてました、なんて言えない。死んでも言えない。


「へーすけもね、おれのこと好きだって、言ってくれてたんだ」

「…うん」

「でもね、とられちゃった」


あの子に、とられちゃった。


「雷蔵も、三郎もハチも、みいんな、とられちゃった。へーすけ、まるでおれの事なんて忘れちゃったみたいに、あの子の所に行くんだ」

「…」

「おれ、どうしたらいいんだろうね」


あは、と力無く笑う尾浜君に、私は何も返せなかった。何故か耳と目を塞ぎたい衝動に、駆られた。現実逃避をしたいのは彼だ。なのに、なんで私が逃げたくなっているのだろう。


(ああ、そうか)


赤い糸だ。彼の小指から繋がれている赤い糸。これが見えるから。いつもその先は、彼の大好きな人へと繋がっていたのに、もうその赤い糸に先が無いから。だからだ。
こんな尾浜君、見たくなかった。赤い糸なんて、見たくなかった。

だけど。


「尾浜君、私ね、素敵だと思う」

「え?」

「尾浜君が久々知君を想う気持ちは、素敵だと思う。不破君や鉢屋君や竹谷君を想う気持ちは素敵だと思う」


だから、どうか。


「諦めないで?きっと、尾浜君の想い、届くから」

「……そう、かな。俺のこと、皆思い出してくれるかな」

「うん。絶対」


ありがとう、と彼は笑った。何も出来ない、臆病な私に。




06.赤い糸に触れるもの
(その日、私は決意した)(彼女から、赤い糸を引き剥がすことを)



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