04.
それからというもの、彼らは様々な時に萌黄に話しかけに行った。色んな意味ですごかった、と後に一番の苦労者である作兵衛は語る。なんたって迷子コンビは萌黄探して三割増しで迷子だ。同級生は突然萌黄に絡むようになった作兵衛たちにびっくりしていた。しかしそんなことは関係ないのである。彼らは本当に純粋に、萌黄と友達になりたかった。
しかし彼らと萌黄の距離は一向に縮まることなく、月日は過ぎていった。萌黄は近づいてくる彼らをやんわりと避け続けたのである。
「日比崎には、僕らの好意は迷惑なのかな…」
ぽつりと呟いたのは、誰だったか。
そんなある日。い組とろ組の合同演習があった。三年生になって実習は本格的なものになるのはわかっていたことで、今回そのはじめての実習だった。それは二つの組をごちゃごちゃにし、くじで決めたグループで渡される課題を遂行する時間を競うというもの。
「まあ、その、よろしくな」
「……(こくん)」
「作ー、日比崎ー、早く行かねー?」
「三之助そっちじゃねぇ!こっちだっつの!」
「……」
同じ班になったのはい組の萌黄、ろ組の三之助と作兵衛だった。孫兵と左門は別の班で一緒になっているようで、向こうの方からも迷子になりそうな左門を叱りつける孫兵の声が聴こえてくる。あちらはあちらで大変そうだと、作兵衛はため息を吐いた。
隣にいる萌黄を見る。相変わらず表情は無のままから動かず、作兵衛と三之助に視線もくれず忍具の点検をしている。
―――――僕らの好意は迷惑なのかな。
(むかむかする、)
作兵衛は内心萌黄が嫌われるのは仕方ないことだと思っていた。孫兵は「個性」だと言ったけれど、迷子癖のひどい「個性」の三之助や左門は、萌黄と違って作兵衛たち以外にも友人はいる。でも萌黄にはいない。誰も。
(結局それは―――――)
「これから合同実習をはじめる!」
教師の声で作兵衛は我に返った。班ごとに一つずつ、課題の書いてある巻物が渡されていく。
今は、考えるべきではないだろう。
作兵衛は頭を振って、目の前の忍務に思考を切り替えた。
作兵衛達の課題は、とある小さな城の戦力を調べてくることだった。小さな城といっても近年戦で勝ち続けている。おそらく今一番勢力の伸びがいい城だ。
「っくそ…!」
作兵衛は暗闇を疾走しながら舌打ちした。先に萌黄を行かせながら、後ろからくる追撃を避ける。
戦力の規模を記録し、城から出たまでは良かった。しかし出たとたん多数の兵が待ち構えていた。自分たちは泳がされていたのだと、今更ながらに気付く。
追手は20程。弓矢で射んとするのを木々に身を隠しながら避け、決めていた待ち合わせ場所に走る。もし追手が来て正規の道を使えなくなったときの為に、普通の傭兵にはわからないような道を見つけておいた。そこには迷子縄で繋いだ三之助を待っている。
はやく、はやく。しかしその時、追手が放った矢が萌黄に迫っていた。
「日比崎!」
「っ、!?」
咄嗟に萌黄を庇い、森の急斜面を転がり落ちていく。作兵衛はそれでも、萌黄を抱え込んだまま離そうとしなかった。
04.抱えこんだ身体
(思った以上に小さかった)
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