00.

―――――伝えたかった事がある。


そう口を開こうとして、やめた。崖の上にある小さな墓場の前でひとり、雪がちらちら舞うのを見つめた。そうでもしないと、想いが全て零れ落ちてしまいそうだった。


―――――伝えたかった事がある。貴方達が生きている間に本当は気付きたかったけど、結局出来ないままだったから。


「杜姫」


彼が呼ぶ。いつも仏頂面で、無口な彼の、それでも優しい声。振り向けば、思った通りの顔があって、少しおかしかった。


「…なんだ」

「ううん」


なんでもない、と言うと、彼は怪訝そうな顔で見てきたが、気にせずに墓場を二人で後にする。


(…お父さん、お母さん。伝えたかった事があるの)


それは幾年も幾年も、問い続け探し続けたもののこたえ。



00.The story before starting.
(そう、これははじまる前の話)(それは幸せを求める、ふたりのはなし)




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