2―Aの教室は、常に喧騒に包まれている。

「先生、そうカリカリするなってよ〜! あ、もしかして生理?」
「喧しいぞ。一体お前らの脳味噌は何歳だ? 頭の悪いセクハラを言っている暇があるなら勉学に励むことだな」
「あいたっ、相変わらずの暴力教師!」
「愛の鞭だ。有り難く受けろ」

各学年一の成績を誇るAクラスの生徒に、そんな台詞を易々と吐いてのける女性の姿。
喧騒の訳、それは、このクラスの担任が、校内の紅一点である伊達榊教師だからである。
教師も生徒も男性のみ。完璧な男子校として成り立っていたこの学校に、よく転任してくる気になれたものだと、その根性には敬意を払うほどだ。
当初は、女性1人で本当にやっていけるものかという多くの者たちの心配があった。しかしそれらは、今となっては皆無だろう。伊達教師の人となりを見てしまえば。

「よお、生徒会長。今日も1人か」
「はい。それより、日誌を提出しに来ました」
「ああ……週番はお前か。生徒会の仕事も重なってるんじゃないか? オツカレサン」

長い黒髪を掻き上げながら伊達教師は笑った。
お疲れ、なんて労う言葉をかけつつも、仕事を手伝うなんて温いことは言わない。彼女は俺を高く評価しているらしく、何があっても甘やかす気はないと、いつか言っていた。
そんな彼女を、俺もまた信頼している。

「ところで先生は、箕嶋副会長をご存じですよね」
「1年の時に担任を受け持ったからな。勿論知ってるとも。今は例の転校生君にご執心だっけか? ああ……そういや彼のご両親はあまり賢い方々ではなかったな。特に名付けが酷い。音で選んだにしろ、何も名前に対極の季節を入れ込まなくてもなぁ。本人もバラバラな奴に育っちまって。ありゃ手に負えん。んで? ソイツがどうかしたか?」
「いえ……そこまで聞ければ十分です」
「? そうか?」


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