「いやはやそんなに誉められると照れちまうぜ」

いつから聞いていたのか、尊大な態度の会計が扉に寄りかかるように立っていた。全クラスで2位、商業科内で1位での成績を保つ彼の態度は、あの風紀委員長に負けず劣らずの大きさを誇る。

「もし今回のテスト結果見たら親父どう思うかなー、褒められちゃうかなー。見せないけどー」

ついでにファザコンだ。
ファザコンとは違うだろうが、とにかく自己肯定感を求める。将来は親の会社を継ぐことが決まっており、父に悟られないようひっそりと実力を積み、親孝行するのが夢だとか。また、そのための商業科履修らしい。
この学校は一応それなりの学力を誇っており、商業科といってもそれに漏れない。むしろ、専門教科によって学ぶ教科が多い分、普通科より大変だと聞く。
そんなクラスの中、絶対に成績を落とすことはない……どころか、数字が絡む教科に於いて1点たりとも落とすことがないという。転校生にご執心な今も。
正に生徒会会計という役職が、適任という存在。

「貴道も3位だなんてやるじゃないか。やはり俺が見込んだだけある」

ぐりぐりと転校生の頭を撫で回しながら上機嫌に笑い声を上げている。一方、手の下の転校生は、全く嬉しくなさそうだ。
……そうだろうな、嫌味にしか聞こえまい。

「それまでにしておけよ、鬼道。それより貴様、生徒会の仕事をしろ」

見兼ねて俺が口を挟むと、鬼道の手が止まった。

「……お前が仕事をしないと、会計監査の者たちも仕事をしてくれない」
「ということは、会長サマは今、俺のカリスマ性をいたく感じ入っているのかな」

ふ、と目を伏せ笑う姿は、腹立つほど様になっていた。ああ、認めよう、そのカリスマ性。いつか後ろから刺されてしまえ。
そう思ったのは転校生もだったようで、さらに表情を曇らせた。会長の座を脅かしている彼にとって、鬼道の求心力は、快いものではないのだろう。同族嫌悪だな。どっちも金髪だし。
眩しいから早くこの部屋から去ってはいただけないだろうか。視界がやかましいと、仕事に集中しにくい。

「ふーん……」

何やら納得したように声を漏らし、会計が近付いてくる。

カツ、カツ。

やがて、執務机の前で立ち止まり、その手が伸びてきて――
俺は咄嗟に目を瞑った。向かってきた掌が、近頃ひっきりなしに浴びせられる悪意の塊が想起させ、恐かったのだ。
けれどその手は俺の横を擦り抜け、無造作に置かれていた書類を幾束か持っていった。
恐る恐る、そして自分の失態を悔いながら、目の前の男を振り仰ぐ。

「何やら面白いことにもなっているようだし、会長が過労で倒れない程度に手伝ってやろう」

会計は紙束を顔の横で振りながら、にんまりと凶悪な笑みを浮かべた。


(3/4)
つぎ まえ もどる

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -