「……ぁ、」

堪えられずつい漏れてしまった声が、思いの外ノイズ交じりだったことに驚いた。それもほんの束の間。下腹部から伝わる痛みに、また意識がそちらへ引き戻されるが。ふと、彼は自分に痛みを与えている原因へと目を移した。ようやく視界がぼやけていることに気付く。ぼんやりとした色で世界が埋まっていた。

ぐずぐず、と体内を掻き回す、白くほっそりした指は今は真っ赤に塗れていた。その向こうでは、もう片方の指先の赤を舐めとる赤が覗いて。
そこに、彼の吐き出した白い息が邪魔をして、酷く不愉快になった。
その時、今日一番の痛みが彼を襲って、ついまたしても呻いた。今度の声には流石に気付いたようで、目の前の赤が細められる。無表情で。
傷口から指を引き抜くと、溢れた血をくるくる腹の上で弄んだ。

「貴方の血は、赤い、のね」

トランプは血を流さない。紙で出来た玩具――カードに、生命は流れない。

だからきっと、彼女らはあんなにも赤に焦がれるのか。
それ以来どちらも言葉を紡がなかった。はふはふと浅い息が木霊して、みっともなくて耳を塞ぎたかった。それをしたくとも酷く怠くて彼の腕は持ち上がらなかったが。

「――――ッ、あ、ァ」

――つぷん、

軽い音と似合わない激痛を伴いながら、またしても指が差し込まれた。



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