ちゃっかり朝御飯もご馳走になったアリスとチェシャ猫は、馴染みとなった応接室で食後の茶を愉しんでいた。
アリスの向かいに座る白ウサギに声をかける。

「僕、21歳だったらしいんだ」
「そうですね」
「知らなかったの?」

想像していたとはいえ、2人の口から直接聞いた衝撃は強かった。アリスは項垂れる。膝に突いた手でこめかみを押さえる。ぐらりと突っ伏してしまいたい衝動。

「本当に、この国の人は僕のこと知ってるんだ」
「“アリス”のこと知らない奴はいないぜ。少なくとも役持ちには」
「……俺はそんなことより、その話を何処で聞いたか気になりますが」
「え」

アリスの喉からひきつった声が漏れた。

「『本当に』と仰いましたよね」
「あ、ほんと。誰かから聞いたみたいな言い草だ」

はっとしてアリスが顔を上げると、しっかりと2人が覗き込んでいた。言い逃れできない状況。
けれど敢えて、アリスは逃げた。

「街の人が言ってたんだ。一々名前なんて覚えてないよ」

空になったティーカップを置いて、アリスはそそくさと席を立つ。追い掛けるような白ウサギの声が引き留めた。

「アリス。……森は駄目ですよ」
「分かってる。何度も言われなくても。子供じゃないんだから」

尚も何か言いたそうな白ウサギの様子に気付きつつもアリスは冷たく突き放した。そら見たことか、と思いつつ。
昨日あんな風に言い伏せられたのだ。白ウサギが森、ないしはその中に住む人々を嫌ってるのは分かる。それも尋常じゃないレベルであることも。
帽子屋から訊いた。その一言を言えば、今度はどんなお小言が飛んでくることか。

(反吐が出そうだ)