白ウサギ邸を出て道なりに歩くと大通りに出る。お供も無しに歩き慣れない国の中を散策するのもどうかと思うが、今のアリスはそんな懸念もないようだ。
ざわざわと喧騒が止まないこの道は、人々の生活の中心なのだろう。人の波が止まない中に、通路を挟んでびっしりと店が並んでいる。八百屋から始まり肉屋や青果店といった食材屋から、喫茶店や画材屋、服飾店に宝飾店、……と、纏まりなく構えられている。欲しいものがあったら、余程の物でない限り、ここで揃ってしまうだろう。
その向こう、一際賑わいを見せる通り。そこでパレードが開かれている。

「ゆっくり見ることはなかったな」

軽快な音楽。人々の楽しそうな笑い声。煌びやかな装飾。膨らんだ空気。
初めてこの国を訪れて、ただがむしゃらに白ウサギを追い掛け、足早に過ぎた道。ウサギ穴で迷い、小さな少女に手を引かれ摺り抜けた喧騒。
ここを通るときはいつだって忙しかったため、アリスはゆっくりと街を見渡したことがなかった。

「感慨深い。と言ってもまあ、今日もゆっくり見ていく積もりはないけど」

皆思い思いに楽しんでいるため、人混みの整理に追われる役員と思しき銀髪の青年に「おつかれ」と聞こえない声をかけてアリスは過ぎた。同情ほど酷い偽善はないだろう、と自らに毒づきながら。

(あれは……)

その青年が、アリスの姿を見つけたときには、もうアリスは背を向けていた。