金の斧、銀の斧(柔金)
開けたのは大きな葛籠
不安、妬み、欲、理性、
沢山のモノが溢れ出して、いつか僕が消えました。
気を失った、弟の金糸を梳く
指に絡む痛んだ髪
自分が付けた肩口の火傷に心が軋む。
酷いことして、この弟が自分を嫌いになるんやったらなんぼでもそうした。
やけど、この弟は全部許してまう。
全部を受け入れて笑う。
へらへらと
「此処に住んどる、コレは…なかなか始末に終えん……」
右手で着直した、浴衣の襟元を掴んで
左手で目元を抑えた。
涙が溢れる訳などないが、締め付けられるコレにもう我慢などならなくなって
「金造、」
好きや
………好きや
声に出さず、名前に変えて叫んだ。
家を継ぐ
子を為す
血を残す
兄亡き今、それを背負ったのは自分で
恨んでなどいないが、冷酷に自分の感情を無視するしかない。
明日になれば、全部忘れよう
全部、全部
自分に嘘を吐く。
一度だけ抱いて手放す。
苦しませることしか出来んのに
落としたのは、金の斧か、銀の斧か
無くしたのは、たった一つの恋でした。
[目次]