あの日の夢をまだ見ている。








『バーカバーカ、祟り寺だってよー気持ちわるっ』



心無い言葉は胸を抉る。
知らない間に深い深い傷を生む。


だから、坊が怒るより先にそれを排除してきた。

坊の見えんとこに、坊の聞こえんとこに



守りたいものしかない。

その世界を、その世界に関わる全てを守りたくて守りたくて仕方ないのに、都合がいいように世の中は進まない。
現実はいつも残酷だ。





「志摩っ!」

背中から坊の大きな声が聞こえて、立ち止まる。

「志摩、」

「どないしはったんですか、坊?そんなに走らはって…」

振り返って、いつもの作り笑い。
得意なのは、嘘と笑顔と空気を読むこと。


「お前、何怒ってんのや」

「…?怒ってないですえ、坊こそなんでそんな風に思わはったんですか?」

緩くいつもの作り笑い。

「怒っとるやないか」

「だーかーらー、怒ってませんて」

一歩近付いてくる。

「お前、これなんや」

右手を取られる。
あっちゃー見つかってしもた……
バラすつもりなんかあれへんかった
せやけど、彼奴等を許す気にもならへんかった。


「気にせんとって下さい。坊には関係ないことです。」


『彼奴がテストで上位なんて、絶対裏でなんかしてるに決まってる』
『聞いたか?彼奴の実家潰れかけの寺らしいぞ』


心無い言葉なんか坊には必要ない。


「…お前、特進科の生徒殴ったらしいな………」

「…………坊には関係ないことです。」

「…………」

胸倉を掴まれて地面に一緒に倒れ込む。

「っぐ、……ぼ、ん…」

「お前、人様に手ぇ出すような奴やあらへんやろ!!」

この人は怒ってはるんや。
何に?俺に?なんで?


「俺の所為やろ」

ぽたり、想いがこぼれて落ちる。
嗚呼、勿体無い。

「ちゃいます。許せんかった俺の所為です。」
だから

「泣かんとってください。」

俺が守りたいものの中心はいつも坊で、愛おしくて仕方なくて

腕を伸ばして、それを掻き抱いた。

「こんな、痣になるまで殴るバカがどこにおるんや」

「はは、此処にいてます。苦笑」


力いっぱい抱き締めて

「坊、好きです。」

「嗚呼」

「好きです、どうしょうもないくらい…好きや。」


好きや、坊が
好きで、好きで仕様がない。



守りたいのに、いつも背中を追いかけてばかりで


それでも

「俺はまだ、坊の隣におってもええですか?」


坊がいつか、俺を見なくなるその日まで。








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