サヨナラ赤い嘘




スタジオ練習の帰りに近道とばかりに中学校の近くの公園を横切る。


もう夏近いとは言え、19時も過ぎれば薄い闇が近付いてくる。

ほんまたまたま、いつもは絶対目なんか止めんすべり台の陰に見覚えのある後ろ姿。
学ランに、短髪、少し猫背な弟。

ちらりと横目で見たのは、長いストレートヘアの可愛い女の子とのキス。

横目で見て、心臓が肥大して
走って逃げた。



走って、走って
背中のギターが重いくらい

ただいまも言わずに、玄関で靴を脱ぎ捨ててあいつに会いたないから、急いで部屋に籠もる。
あいつやって、年頃や彼女の一人や二人おったって普通、なんもおかしない。
可笑しいんは、こんな風にあいつと体を繋げて少しでも縛りたいと思う自分や…
体を繋げたんは一度や二度やない。
何度もあの声で名前を呼ばれて果てた。

逃げやって分かっとる。
ただ、あいつは柔兄に似とるから
悔しなるくらい、そっくりやから…
柔兄にそっくりな顔で、好きやって言うから…あの口で。

あの口で好きやって


さっきのキスを思い出す。


あんなに優しく触れられたことなんかあっただろうか。

思い出して指先で唇を押し潰す。

目を閉じて、指の腹をあてて



「金兄、やらし」

「っ、!」

背中越しに声を掛けられて、びっくりして体が硬直する。


「さっき公園で走ってくん見えたで」

背中に刺さる物言い。

気配が近付いてくる。

「なぁ、金兄………俺のこと嫌いんなった…?」

背中から抱き締められる。

「金兄、……好きなんは、金兄だけやで?なぁ、」

最低や。
好きなんは俺だけと曰う、こいつが
あぁ、ちゃうな…最低なんは俺やな、
そんな気休めを聞いて安心してしもうた、よかったと思った。
俺はまだこいつを縛れる、と


気が付いたら雁字搦めで、縛られとんは俺の方で

「なぁ、金兄」


あの人に似た顔で、あの人より甘い声で俺を呼ぶな。


柔兄とは違う甘さをキスで溶かして



『金造』



名前を呼ぶ。
名前には、言霊があるって言われるけど、そいつが紡ぐ、発する言葉には、意味があって廉造が呼ぶ俺の名前は正しい。

だから、縛られる。
身動きが出来ない。

無力になる。




「金兄、」

両手で顔を隠した。
泣いてなんかあらへん
泣いてなんかやらん

この弟はいつだって残酷な現実を叩きつける。


「俺だけ見てや、…俺だけ見てくれたら、俺は金兄だけのもんになれる」

塞いだ視界には黒髪の優しい微笑みを携えた柔兄が浮かぶ

「………っ」

首を横に振る。

「柔兄が好き、や…」


俺の気持ちは誰のもんでもない。
お前にも左右されん


「…………………」

「ひっ、なんゃ…」

項に噛みつかれた。
痛い


そのまま馬乗りに、頭を抑えられる。


「いっ、た…」

「金兄はもう俺のもんやで。だから、」

髪が皮膚に触れる。

「…キライにならんとって…」











涙が傷に滲みた








[目次]



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