※モブ♀青要素あり


昔から、女の子らしいものが苦手だった。小6まで一人称は「俺」だったし、スカートなんて絶対履かなかったし、ピンクや赤より青が好きだった。周りからは「男の子みたいだ」と言われ、女友達より男友達の方が多かった。
自分が「女」として見られる時なんて、絶対来ないと思ってた。だからテツの、「青峰さんはもう少し、自分が女子だって自覚してくださいね」って言葉にも、耳を貸さなかった。


「好きだ」
と、キセキを除けば一番中の良かった男友達に言われたのは、中2の夏。部活が休みの日の放課後、あたしがそいつの家に遊びに行った時だった。親は二人とも出かけているらしく、家にはそいつとあたしだけだった。
「おー、あたしも好きだぞー、お前いい奴だし」
ベッドに仰向けに寝転がってマンガを読みながら、ま、テツには負けるけどな!なんてケラケラ笑っていたら、そいつは首を振った。
「そういうんじゃねえよ、青峰」
「ん?」
そいつがあたしの読んでいたマンガを奪い取って、あたしの上に覆いかぶさるようにしてベッドに上がり、顔の横に手をついた。二人分の体重に、スプリングが悲鳴をあげた。
「恋愛感情で、お前が好きなんだ」
赤く染まった頬、潤んだ瞳。そいつがめちゃくちゃ緊張してるのが、鈍いあたしでもわかった。あたしの脳みそはすでにキャパオーバーで、何が起こってるんだかよくわかってなかった。
そいつの顔が近づいてくる。恥ずかしくてあたしはとっさに目をつむった。唇になんだか温かくて柔らかい感触。ああ、これがキス。さつきの読んでる少女マンガみたいに甘ったるくなんかない。よくわからない。あたしは頭の中がこんがらがっていて、いつもの敏捷性が嘘のように、固まって動けなかった。
目の前にいるこいつが、いつもと違う。なんだか、知らない奴みたいで怖かった。
そうこうしているうちに、そいつの手が胸やら太ももやらをまさぐりだす。あ、これはもしかしてやばいんじゃねえの、と冷や汗をかき始める。ブラのホックを外されたところで、あたしは震える声で、「やめろ」と呟いた。そいつの手が直接胸に触る。
「やめろ」手は止まらない。もう片方の手がスカートの中に突っ込まれた時、あたしは渾身の力を振り絞って、そいつを突き飛ばした。
床に尻餅をついたそいつが小さく、ごめん、と呟いた。あたしは部屋を飛び出した。


開いているシャツを隠すように荷物を抱えて走っていたら、向こうから、見慣れた水色のボブが歩いてきた。
「あれ、青峰さん、どうしてこんなところに」
歩みを止めたテツにぎゅっと抱きつく。
大きく開かれたままのシャツに、ホックの外れたブラを見て、テツはため息をついた。
「だから言ったでしょう。とりあえず僕の家に行きましょう。あと、桃井さんも呼びます」
テツがホックを留め、シャツのボタンを閉めてくれて、あたしの手をぎゅっと握ってくれる。小さくて少し冷たい手なのに、すごく頼もしくてあたたかい。
「ごめん、テツ」
「僕に謝られても」
「あたし、女だったんだ」
「そうですよ、そんな立派なおっぱい持ってて君が女じゃなかったら、僕は一体なんなんですか」
「そういうことじゃねえよ」
「わかってますよ」
自分が「女」として見られる時なんて、絶対来ないと思ってた。だからテツの、「青峰さんはもう少し、自分が女子だって自覚してくださいね」って言葉にも、耳を貸さなかった。
でも、今日、思い知った。
あたしは女だった。ずっと友達だったと思ってたのに、あいつはそうじゃなかった。あたしのことを、『女』として見てた。『男』としてあたしに接していた。あたしが気づかなかっただけだった。
足がガクガク震える。今になって急に怖くなった。情けない。
「なあ、テツ。あたし、これで男嫌いになったらどうしよう」
「君のことですから、一晩ぐっすり眠って、美味しいご飯を食べて、バスケをすれば忘れちゃいます」
さあ、僕の家へ行きましょう。今夜はハンバーグなんです。今夜は家に泊まっていってください。桃井さんと三人で女子会でもしようじゃないですか。
珍しく饒舌なテツを見て、ああ、こいつはあたしを励まそうとしてくれているんだな、ってわかって嬉しくなった。つないだ手をきゅっときつく握って、あたしはテツを引っ張って駆け出した。






09/08
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