屋上に寝そべり青い空を見上げながら、青峰は体育館で卒業生が歌う『旅立ちの日に』をぼんやり聞いていた。
そうか、もう“旅立ちの日”なんだな、と納得する。
もうあの体育館で、皆で集まってバスケをすることもない。練習の帰りにコンビニで買い食いをすることもない。ワンオンワンをしつこく申し込まれることもない。菓子のゴミがコートに落ちていることもないし、ラッキーアイテムが部室に溢れることもない。あれほど絶対的な威圧感を感じさせる主将もきっといないだろう。それから、あれだけ噛み合う相棒も、きっと二度と現れない。
他のキセキの仲間たちの進路を、青峰は知らないし、知ろうともしなかった。黒子の退部後、彼らは自然とバラバラになっていった。高校でも共にバスケをしようとは、誰も言わなかった。
きっと、テツが俺たちを繋ぎ止めていたんだろう。あいつのパスが、あいつのプレーが、バラバラな俺たちを繋ぎ止めていたんだ。多分。テツが俺たちに愛想を尽かしたとたん、俺の周りからは誰もいなくなっちまったし、あいつらの周りからも誰もいなくなっちまった。
そんなことを考えていたら、屋上のドアが軋みながら開き、見覚えのある顔が覗いた。
「青峰くん、もうHRも終わっちゃったよ」
呆れたような顔をして桃井が青峰に黒い筒を投げて寄越した。
青峰は筒をキャッチし、上半身を起こす。
帝光中学校第XX回卒業生、筒に刻まれた金色の文字が煌めいた。
「……ちげーわ、さつきがいた」
そう、青峰の側から桃井は離れなかったのだ。スポーツ推薦で受かった青峰の後を追い、彼女は桐皇学園を一般受験したのだった。
「何が」
「なあ、さつき」
「何よ」
「お前さ、なんで桐皇にした?」
「あんたが行くからじゃない」
「だから、なんでだよ。テツもいなくなって、これからのバスケを諦めちまった俺に、どうしてお前は愛想を尽かさないんだ。どうしてお前はまだ、俺の側を離れないんだよ」
桃井は青峰の呟きを黙って聞いていた。らしくないなあと思って聞いていた。この男は、普段は他人の真意を探ったりはしないのに。
それだけ、テツ君がいなくなって、痛かったのね、きっと。
桃井はふわりと微笑んだ。
「わかったようなこと言うなって怒るかもしれないけどね、私やっぱり大ちゃんの考えてることわかるんだよ。だって何年の付き合いだと思ってるのよ、今更愛想尽かしたりなんてしないって。
私は大ちゃんについてく。またいつかバスケを楽しめるようになるまでとことん付き合ってもいい。あんたがバスケに絶望してどこまでも堕ちていくなら、私も一緒に堕ちてあげる」
だからいつまでも、大ちゃんは大ちゃんのままでいて。らしくない心配とかしなくていいから。
自分よりずっと小さいはずなのに、自信たっぷりな幼馴染みは、なんだかとっても大きくて頼もしく思えた青峰は、しかしそれを素直に口にするような男ではないので、「さつきのくせに生意気だ」と顔をしかめた。
しかしそれが照れ隠しだと知っている桃井は、嬉しそうに笑った。





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