キュ、キュ、とバッシュが体育館の床に擦れて音を立てる。青峰がボールをついてコートを駆け回るのを、黒子は第4体育館のステージに仰向けになって、ぼんやりと見つめていた。休日練習後の自主練はさすがにキツい。おまけにこの蒸し暑さだ。青峰の体力は底無しか、と黒子は思った。
日中はあれだけ煩かった蝉の大合唱も、夕暮れとなった今では蜩の声しか聞こえない。夕立の気配を含んだ蒸し暑い空気、もくもくと東の空にそびえ立つ入道雲、切なげに鳴く蜩の声、夏を感じさせるそれらのひとつひとつが、なぜだか黒子を感傷的にさせた。

「っあー、疲れた!さすがに俺もバテバテだわ」
青峰が練習を止め、黒子の横、ステージの上に腰掛ける。汗をかいてぬるくなったスポーツドリンクを喉に流し込み、タオルで乱暴に汗をぬぐった。
「青峰君」
「あ?」
「なんだか、泣きそうです」
黒子の呟きに、青峰は首をかしげた。
「何でだよ、意味わかんねーよ」
「ボクにも分かりませんが、夏の夕方は、なぜだか、とても切なくなるんです」
例えるなら、イベントの終わりに似た寂しさである。楽しいことが終わってしまう、こんなことならもっと一分一秒を大切にしておけばよかった、などという、焦燥感のような、虚無感のような、そんな気持ちなのだ。
「あおみねくん」
黒子は青峰の手をとった。暑くて、大きな手だ。あたたかい。生きている。それだけで、何だか泣きそうになる。
「よくわかんねえけど」
青峰は黒子の手をぎゅっと握った。黒子の手は小さい。汗ばんではいるものの、少し冷えている。青峰は、黒子の体温が低いから、寂しい気持ちになるのではないかと思った。
「まだ夏休みも始まったばっかだろ?合宿も花火大会も夏祭りもあるだろ。お盆休みになったら、川でも山でも遊びに行きゃあいい。第一、赤司のメニューが鬼畜すぎて、切ないなんて思ってるヒマ、すぐになくなるぜ」
歯を見せて笑う青峰に、黒子の心がぽっとあたたかくなる。
「……そうですね」
黒子が小さく笑みをこぼしたのが嬉しくて、青峰は黒子の頭をわしゃわしゃとかき混ぜた。
「よっし、今日は帰るか。テツ、マジバ行こうぜ。昨日小遣い日だったからおごってやるよ」
「ありがとうございます」



きみといっしょならさみしくないよ


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ちなみに夏の夕方にさみしくなるのは私です。





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