「また泣かせたんですか」
窓際の席で頬杖をつきながらコーラを飲んでいた青峰の向かいに座ってきたのは黒子だった。手にはいつものようにバニラシェイクを持っている。
「なんで知ってんだ、テツ」
「入り口で黄瀬くんと会いました。最も、彼は僕達に気づかないまま、走っていきましたけど」
「へえ」
青峰は興味無さげにまたコーラを啜った。
つい五分ほど前まで、彼の向かい側には黄瀬が座っていた。二人で適当に話しているうちにいつの間にか口論になり、黄瀬が青峰の胸ぐらを掴んだ。そして泣きそうな顔をして出ていった。いつものこと。よくある喧嘩だ。
「青峰くん、黄瀬くんの泣き顔が好きだとかでわざと傷つけてるでしょう。そんな分かりづらい愛情表現じゃ、黄瀬くんには伝わりません。何せ、君と同レベルのアホなんですから」
「あ?同レベルのアホって何だよ。つーか愛情とか言うな、気色悪ぃ」
「だって青峰くん、黄瀬くんを好きでしょう?」
青峰は言葉をつまらせる。口元を片手で覆い、視線をさ迷わせたあと、明後日の方向を向いて「……うるせー」と小さく呟いた。
(素直じゃないですね、まったく)
内心ため息をつきながら、黒子はバニラシェイクを啜った。
「でも君、そんなことしていたら、そのうち盗られちゃいますよ」
「誰にだよ」
「君も知ってる人です」
青峰は眉をぴくりと動かした。
(誰だよ、コノヤロー)
黒子も自分も知っている、誰か。緑間、紫原、赤司、火神、――……。

ん?

(さっきテツ、“僕達”って)

□□□

黄瀬は走っていた。五割くらいの力で、何度も後ろを気にしながら、それでも走っていた。
わかっている。青峰は自分を追ってきてくれるような男ではないことを。わかっていながら、こうして毎回後ろを気にしながら走って、走って、走って、息が苦しくなる頃に立ち止まって、涙をぬぐって。
もう、何回繰り返したかわからない。
黄瀬は公園のブランコに腰を下ろして、重い鞄を地面に放り出した。空を見上げればもうすっかり暗くなっていて、どこからか夕飯の匂いが漂ってきていた。
(青峰っちの、バカ)
もう何回喧嘩したのかわからない。いつもきっかけはどうでもいいことだ。どうでもいいことで青峰がキレて、理不尽な怒りをぶつけられ、黄瀬が耐えきれなくなって逃亡し、一人で泣く。その繰り返し。
昔はまだたまにしか喧嘩をしなかったが、近頃は顔を会わせる度に喧嘩していた。
(もう、やだ)
辛くて仕方ない。離れてしまった青峰との距離も、喧嘩の度にどうしようもなく落ち込む自分も、どうでもいいことでキレる青峰も、全部。

ぼやけた視界のすみに移る、大きな足。
黄瀬はのろのろと顔をあげた。

息を切らした火神が、立っていた。




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