※原作読み返さないで書いたのでいろいろと矛盾あるかと思います



ジャンは窓辺で、頬杖をついてぼんやりと星を眺めていた。
調査兵団に配属されて数日が経った。座学や実技指導により兵団での基礎を叩き込まれる毎日は厳しく、夕食を食べる頃には心身共に疲れ果てている者が多かった。ジャンも決して疲れていないわけではない。むしろへろへろだったが、今夜は何故か、身体は疲れているのに頭がしんと冴え渡っていて、鼻の奥がツンと痛んで眠れないのであった。それで同室の仲間を起こさないようにそっと部屋を抜け出し、談話室の窓辺で星をぼんやりと眺めていたのだった。
頭の中をぐるぐると回っていたのは、マルコのことだった。ジャンは未だに、あれが本当にマルコだったのか、マルコは本当に誰のものともわからない、小さな焼けた骨になってしまったのか、信じきれずにいた。こんなとき、後ろから、「ジャン、眠れないのか?夜更かしは身体に毒だぞ」なんて、ぽんと肩を叩きそうな、そんな気さえするのだ。
「……ジャン、まだ起きてたの?夜更かしは身体に良くないよ」
不意に肩を叩かれ、呼びかけられたのに驚いて、ジャンはとっさに後ろを振り向いた。
「あ、ごめん……邪魔した、かな」
後ろに立っていたのはアルミンだった。小脇に毛布を抱え、空いた手には湯気の立ち上るマグカップを二つ持っている。
「マルコかと思った」
ジャンはつぶやいた。アルミンの言った台詞が、さっき自分が想像したマルコのものと同じだったからだ。
アルミンは何も言わず、ジャンの隣に腰掛けて、マグカップを机に置くと、持っていた毛布で自分とジャンを包み込んだ。
「流石に寒いでしょ。ほら、そっちの端っこ持ってて。これ、ミルクに蜂蜜溶かしたやつ」
「ミルクに蜂蜜って……いいのかよ」
ジャンが毛布の端をしっかり掴んで、毛布がずれ落ちないようにしながら尋ねた。
「サシャの真似をして、調理場からくすねてきたんだ。大丈夫、今ならみんなぐっすりさ」
いたずらっぽく笑うアルミンの顔が、次第に真面目な顔になっていく。ジャンはミルクを啜った。甘い。
「……ジャン、ジャンはマルコのこと、整理がついたのかい」
「……まだだ」
「僕もだよ。なんだかまだ、彼が生きているような気がして、彼がひょっこり顔を出して、また二人で、戦術や道具の改良の話なんかをできるんじゃないかって、そんなことばっかり考えてる」
ミルクに星空が反射する。揺れる水面に、砂糖粒みたいな星が煌めく。
アルミンのカップが小刻みに揺れて、砂糖粒が散った。
「彼は、人類に、……僕らにとって、必要な人だったんだ」
ジャンはアルミンの頭にポンと手を置いた。
「アルミン、俺はただ、怖いよ」
その手でアルミンの頭を優しく撫でる。
「死ぬのが怖い」
「僕だって同じさ」
ジャンはカップを机に置き、アルミンの分も取り上げて机に置いた。
そうして、アルミンの背中にそっと腕を回して静かに抱き寄せた。
「怖いんだよ、俺。怖くて怖くてたまらねえ。今だってほら、こんなにも腕が震えちまってさ」
アルミンは静かに震える腕に抱かれていた。男に抱かれるのは少し嫌だったが、弱っている男を無碍にはできない。自分もジャンの背中に腕を回して、とんとん、と優しいリズムで背中を叩いた。昔、怖い夢を見て泣いていた自分をあやしてくれた、両親や祖父のやり方をまねて。

夜がしんしんと更けていく。その寒さと寂しさに耐えかねて、ジャンはいっそう強くアルミンを抱きしめた。





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