※シンジャのつもりで書いたけどほぼジャーファルとアラジンの会話

「王宮のお風呂って、広くて綺麗で気持ちいいねえ」
「ふふふ、そうですねえ」
大きな湯船に嬉しそうに浸かるアラジンを、ジャーファルは少し離れて見守っている。いつもはアラジンはアリババと湯浴みをするのだが、今夜は珍しくアリババは師匠のシャルルカンと飲みに行っているため、仕事が一段落したジャーファルが湯浴みに付き添っているのだった。
「ねえ、お兄さんも一緒に入らないかい?」
「え?私もですか?」
「だって僕が入っている間、ずっとそこで立っているよりも、一緒に入った方が楽しいじゃないか!」
ジャーファルは目を瞠った。彼が風呂に入らず傍でアラジンを見守っていたのは、何があってもマギであるこの子供を守れるようにであったが、考えてみればここはシンドリアの王宮、そこまで過敏にならなくても良いのかも知れない。徹夜続きで何日も湯浴みをしておらず、身体も随分凝っている。
「……そうですね。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

シンドリアに食客は多い。そのため緑射塔の大浴場は、王宮の中でも一、二を争う大きさだ。今はアラジンとジャーファルの二人きり、貸し切り状態であった。
服を脱いだジャーファルが湯船に身体を沈めて行く。何日かぶりの湯浴みである。それも、ここ最近は仕事に追われ、こうしてゆっくり湯船に身を沈めるのはずいぶんと久しぶりだった。アラジンはジャーファルの隣に身を寄せたが、その腕を見て目を瞠った。
「……お兄さん、これ」
「……ああ、これですか。私の眷属器、あるでしょう。あれを昔から常に身につけているものですから、縄目が痣になってしまったんですよ」
「さわっても平気?」
「ええ、どうぞ」
アラジンはジャーファルの二の腕をそっと撫でた。細身の割に案外筋肉質な腕に這う縄目の痕を掌で辿る。よく見てみれば、ジャーファルの身体には他にもあちこちに古傷や痣があった。
「ここも、ここも、いたそうな傷痕がいっぱいだよ……?」
泣きそうな瞳で見つめてくるアラジンの頭をポンポンと撫でて、ジャーファルは微笑んだ。
「もう痛くないから大丈夫ですよ。昔の傷ですからね」
「昔……あ」
アラジンは謝肉宴の際、シンドバッドが八人将を紹介してくれた時のことを思い出す。
「お兄さんは特殊な暗殺術の使い手だって、前にシンドバッドおじさんが……」
「そう、シンに出会うまで、私暗殺者をやってたんです。これもこれも、みんなその時の傷。もちろん迷宮を攻略した時の傷も、それよりあとの傷もありますけど」
暗殺者時代の傷は、どれがいつのものなのかなんて覚えてはいなかったが、シンドバッドに出会ってから負った傷は全て、いつ、どうして負ったのか今でも覚えている。眷属になり、成長してからは傷を負う回数も減ったが、少年時代に負った傷は数知れず、命に関わる傷も何度か負った。
「私が怪我をするたびに、ヒナホホやドラコーンが手当てをしてくれました。シンはああ見えて手先は結構不器用ですからね。そのうち私も手当ての仕方を覚えて、シンやマスルール、シャルルカンなんかによく湿布やら傷薬やらを塗ったりしてあげましたが」
修行中のマスルールとシャルルカンは、とにかく生傷が絶えなかった。しみるから嫌だと駄々をこねるシャルルカンを押さえつけて傷薬を塗ったのも、今ではいい思い出である。
「暗殺者時代の傷は思い出したくもないですけれど、それより後の傷は全部、負ったことに誇りを持っています。だって、私がこれを負ったことで、その分誰かを守れてるってことですから」
そこまで話してジャーファルはハッとして口を手で覆い、「子供のあなたにする話ではありませんね」と苦笑した。アラジンは首を横に振る。
「ううん、分かるよ。僕だってアリババくんやモルさん、皆を守ったしるしなら、誇りに思うはずだもの」

風呂から上がり、アラジンを部屋に送った後、執務室で資料整理をし、真夜中にようやくジャーファルは紫獅塔の自室へと向かった。
「アラジンと風呂に入ったそうじゃないか」
部屋の扉の前では、シンドバッドがむくれた顔をして立っていた。
「誰から聞いたんですかその話。ていうかシン、アンタ酒臭いですよ」
「シャルルカンとアリババ君に、俺もついて行ったんだよ。んで、アリババ君が潰れちまったから部屋まで送り届けたんだけど、その時にアラジンが嬉しそうに言うもんだから」
「で?10歳の子供にやきもちやいてるんですか。全く、大人気ない」
ため息をつくジャーファルに、シンドバッドはうるせえ、と頬を膨らませてみせる。
「いくら誘っても俺とは風呂に入らないくせに」
「貴方にはちゃんと専用の豪華な風呂があるでしょう。それに、臣下と共に風呂に入るなど、王のすることではありません」
「お前はただの臣下じゃねえ」
シンドバッドはジャーファルに腕を伸ばす。いつもは抵抗するジャーファルも、大人しく引き寄せられるがままにシンドバッドの腕の中へすっぽりとおさまった。
「俺のだろ」
「アンタ相当酔ってますね、いつもは余裕ぶっこいてんのに、今日は必死だ」
くすくすと笑うジャーファル。ムッとしたシンドバッドはジャーファルを抱き上げる。
「あ、ちょっ」
「仕事は一段落したんだろ、今夜はシン様頑張っちゃうから。足腰立たなくしてやるから。そんで明日の朝、俺が風呂に入れてやる」
覚悟しろ、とぎらついた瞳で凄まれて、ジャーファルはふぅ、とため息を吐く。
「……本当に、しょうがない人」


でもちょっと嬉しかったのは、ないしょ。





01/07
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