一度だって口にしたことはなかったけれど、中学の頃から日向のことが好きだった。リングに向かって黙々とシュート練を続ける、俺より少し広い背中が好きだった。けれどこの気持ちを一度でも口にしてしまえば、俺は日向の傍にはいられない。だからお前が好きだ、なんて口が裂けても言えなかった。この気持ちは胸の奥にしまおう、墓場まで持っていこう。そう決めていた。
そんな俺の決意も空しく、日向は高校に入ってすぐに、木吉という男に絆されてしまった。木吉は決して悪い男ではないのだ。俺もあいつのことは好いている。ただ、俺がずっと言えなかった言葉を簡単に言ってのけて、俺がずっと欲しかったものを横から掻っ攫っていった、その点は憎らしいけど。
二人は付き合っているわけじゃなかったけど、皆何となくいい雰囲気なのは察していて、それなりに気を遣っていた。俺も吹っ切れたわけじゃないけれど、日向が幸せならそれでいいや、なんて考えられるくらいには、恋心を封印できかけていた。
それなのに。
霧崎第一戦で負傷した木吉は、一時バスケ部から姿を消した。

「…正直さ、チャンスだと思ったよ、木吉には悪いけどさ」
部活後、一番最後まで自主練していた日向を部室で待ち伏せして、ロッカーに押し付けて愛の告白。ああ、なんてベタなんだろう。まあ、愛の告白、っていうほどじゃないけどね。
「チャンスって、何がだよ。下手なこと言ったらぶっ飛ばすぞ、伊月」
日向はどうやら、俺が木吉の故障を喜んでいると勘違いしたようだった。
「おっと、勘違いすんなよ。木吉の故障を喜んでるわけじゃない。俺が喜んでるのは、お前の傍に木吉がいないことだよ」
「はあ?」
「だからさ」
少しだけ背伸びして、キスできるんじゃないかってくらいぎりぎりまで顔を近づければ、日向の頬が赤く染まった。
「好きなんだよ、お前が。ずっと、ずっと前から」
スマートに告白したかったのに、日向の眼鏡のレンズに移った俺は、笑っちゃうくらい真っ赤で、切羽詰まった格好悪い顔をしていた。




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