性転換蝮柔
あいつは真面目でまっすぐな男だけど、バカじゃない。
例えば私が「一緒に堕ちて」って頼んでも、堕ちかけた私のこと、引っ張りあげようとしてくれるんだと思う。
まあ、悪魔堕ちなんて私の誇りに傷がつくから絶対しないけど、たとえ話だ。

幼馴染みでひとつ年下の蝮は、小さい頃からずっと私に惚れている。私はそれを知っている。
正直、まんざらでもない。好きと言われたら付き合ってもいい。でもあいつはそれを言わない。線引きのつもりか、びびってるだけか。どっちにせよ、好きと言わない。

私達は何年もお互いの気持ちをさらさないまま、中途半端なままで、ある意味恋人よりも近い距離、親密な関係をだらだらと続けている。
□□□
「もう、やめんか?こういうの」
合わさった背中から蝮の緊張を感じた。
本当はやめたくないくせに、手放したくないくせに。嘘をつくのが下手すぎるのだ。
「なんで?」
「お前、彼氏いてはるやろ。それなんに、おかしいやろ。俺らもうガキちゃうんや」
「なに言うてん、うちら幼馴染みやで?こんなんいつものことやん。それに中坊なんてまだまだガキや」
「そういう意味やない……!」
「わかっとるよ。生理がきて、おっぱいが膨らみはじめて、うちが“女”になったみたいに、あんたも“男”になった、せやから夜中に男の部屋に来るような真似はもうするな、そういう意味や」
「わかっとるなら……」
「せやけど、やめるなんて無理や」
私は背中を離し、後ろから蝮の身体に腕を回した。
「おい……!」
焦る蝮を無視して、肩に顔を埋める。
「あんな、うち、あんたが思っとるほど、強くない。あんたがおらんと、うち生きていけん」
お願いだから、突き放さないで。一緒に足掻いて、苦しんで。
こんなこと、あんたにしか頼めへん。あんたにしか出来ん。
「家ではな、弱音なんて吐けへんの。うちが辛いって言うたら、お母が自分のこと責めるやろ?『私が矛造の代わりに死ねばよかったんや』とか言うやん。それに、妹や弟たちはうちのこと、何でもできる強くて立派なお姉やとおもっとる。お父かてうちに賭けとる。弱音なんて誰にも吐けない」
錫杖握って、掌の豆潰して、かすり傷や青痣つくって、経も覚えて、毎日辛いけど、私がやらなくちゃいけない。矛兄に負けない立派な後継ぎにならなくちゃいけない。
「…って愚痴は、何も知らへん鈴木くんには言えんやろ?正直彼のことはそんなに好きやないねん。告白断るのなんとなく気まずかったし、うちも普通の女の子の気分を味わってみたかったんよ」
蝮の、私より少しだけ大きくなった手が、ぎこちなく私の頭を撫でた。
「なあ、こんな話できるの、あんただけなんよ。お願い、うちのこと見捨てんといて。そばにいてやぁ……」

「手ぇ離せ、そんで顔あげぇや。ちゃんと話聞いたるから」






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