♀しま♀すぐ
「お嬢、あんな、絶対に誰にも、言わんといてな?」
伏し目がちに頬を赤らめる志摩を見て、なんだか嫌な予感はしたのだった。
「うち、奥村くんが好きみたいやねん」
終わった。勝呂は思った。うちの恋は、今回も始まる前に終わってしまった。
なぜだろう。毎回毎回、勝呂が気になり始めた男のことを、志摩は好きだと言うのだ。きっと好みが似ているのだろう。だが、うちも好きやねん、とは口が裂けても言えなかった。そんな、たかが恋くらいで、この幼なじみとの関係を崩したくなかったのである。だから今回も、勝呂は曖昧に微笑んだ。
「そうなんか、うまくいくとええなあ。うちも応援するし、頑張りや」


曖昧に微笑んでそう言った勝呂を見て、志摩は内心くすりと笑った。
これで今回もお嬢の恋は、始まる前に終わってしまった。ぜぇんぶうちの目論見通りや。
勝呂が気になるそぶりを見せようものなら、いかにもそれらしい視線を相手に送りつけ、彼女には好きなのだと打ち明ける。そうすれば人のいい勝呂は、身を引いて志摩を応援する。
主である勝呂から唯一志摩が奪えるのは、勝呂の恋心なのである。酷いことをしているとは思っていない。事実、勝呂の恋は始まったわけではないのだ。始まる前に摘んでいるだけ。志摩は罪悪感なんぞ、これっぽっちも感じていない。
お嬢に恋人なんぞおらんでええ。ずっと一人でおればええ。
その薄暗い気持ちが、彼女を嫌いだからなのか、彼女を好きだからなのかは、もう志摩にもよくわからないのだった。




05/05
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