親世代詰合せ
八百蟒
「拗ねとんのか」
「拗ねとらん」
言葉とは裏腹に、琥珀色の蛇眼は不満げに細められ、そっぽを向いたままだ。八百造はいとおしそうに笑うと、「ほら、おいで」と両手を広げた。蟒は驚いたのか何度かまばたきをして、それから膝で八百造へと這い寄った。白く細い腕が八百造の背中へと回される。蟒は八百造の肩口へ顔を押し付けた。線香と、それから少し汗の匂いがした。
「触れようとすれば怒るくせに、たまにこうやって甘えてみたり……俺には今でもお前さんのことがわからん」
「わからんで結構。所詮は気紛れや」
八百造は肩口に顔を埋めたままの蟒の項を見やる。着物の下へと続く刺青を辿ってみたくなって、首筋を撫で下ろし着物の中へと手を差し込む。抵抗はなかった。


しろたつ/某曲パロ
目覚めるといつも、隣に敷かれた布団は冷たくなっている。部屋の隅に置かれた文机の上の、空になった酒器の下には千切られた紙切れが敷かれていた。そこに並ぶ、走り書きの青い“また来る”の四文字に、いつも心を掻き乱される。
その“また”がいつを指すのかも分からないのに、すぐにひょっこり姿を現すような気がして。期待などするものかと、なるべく彼のことを考えないようにしても、身体に散らされた赤い花弁、あるいは軒先に打ち捨てられた煙草の吸い殻、そんなものを見つけては昨夜の情事を思い出し、彼の体温が恋しく感じられた。
彼のことを強く思っているのは事実たが、時々どうしようもない程憎くなるのもまた事実。一人ぼっちで夜明けを迎え、昨夜の彼の痕跡をひとつまたひとつと見つけるたびに、こんなにも辛く切ない気持ちになるのだから。


獅蟒
「忘れられねぇんだ、お前のキスが」
威嚇と腹いせのつもりだった口付けのお陰で、厄介なことに巻き込まれてしまった。
「困ります、そないなこと言われても」
「どうして」
「せやかて、アンタは達磨様と」
「だからなんだ」
「私はあの方の臣下で」
「俺には関係ない」
「私にも八百造、志摩が居りますし」
「それも関係ない」
「藤本さん」
「なあ、いいだろ?一回くらい。そんな綺麗な顔した坊主なんだ、処女じゃあねぇだろ」
「……そうですが、でも」
「それに言ったろ?攻められるのは趣味じゃねぇって。攻められっぱなしじゃいられねぇのよ、俺は」
言うなり彼の腕に頭を引き寄せられ、強引に唇を重ねられた。薄い舌が唇を割って口内へと侵入し、私の舌を絡めとる。舌を絡めあっているうち、私の身体にも火が点いた。唇を放せば銀糸が二人の間を伝う。飲み込みきれなかった唾液が口端から首筋へと垂れていた。着物の裾で拭う。
「その気になったか、やらしい目ェしやがって」
彼がそう言って笑うから、私もにやりと笑ってみせた。
「火ィ点けたんはアンタや。責任、取ってくださいね」




03/22
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