しま♀すぐ
※某ドラマパロ

「待ちぃ、竜士!」
病院から足早に去る勝呂を、達磨が呼び止めた。勝呂は振り返る。
「……たまに、母さんの顔見に来たってくれ」
遠慮がちに言った達磨を見て、勝呂の中で何かが弾けた。
「お父、親より仕事のが大事なん、て言いたいんやろ?ああ大事やで、仕事が!」
達磨は何も言わない。勝呂は踵を返した。
「ほんならな」
重かった。
すべてが。


帳場が立っているときは、勝呂は自宅に帰らずホテルに泊まる。勝呂がホテルに帰ると、入り口に見慣れた男が立っていた。
「……なんでおるんよ」
問いかけても志摩は答えない。
「なんで、こんなときにおるんよ……っ!」
勝呂は苛立って髪を掻き上げた。その薄い身体を、志摩がそっと抱き寄せた。

「……お帰りなさい」
暖かな体温と、小さく呟かれた台詞に、張り詰めていたものがどっと溢れ出した。
「………うっ」
勝呂は志摩の肩口に顔を埋めた。涙でコートが汚れるかもと考えたが、惚れた女の涙ならこいつも文句は言わないだろうと、考えるのを止めた。

重かった。
しきりに見合いを勧める母親も、無言のうちに自分を責める父親も、自分をお嬢ちゃん扱いする職場の奴らも、あの夏の夜の殺したいほど憎いあの男も、
すべてが重かった。

弾かれたように勝呂は志摩の肩口から顔をあげ、志摩を突き放した。掌で乱暴に涙を拭い、おやすみ、と志摩に告げてホテルへと入っていった。
志摩はそれをただぼんやりと見つめていた。

勝呂は部屋に戻り、荷物を放り投げてベッドへと身を沈める。そして、思い出す。
先程の志摩の体温や、広い背中や、微かに香る煙草の匂い、お帰りなさいと囁いた低く掠れた声、背中に回された腕の力強さ―――
「……ああ゛ッ!」
こんなときも自分は女なのか。




03/07
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