「宝生君は、女の扱いが上手やね」と、笑って言ったのは誰だっただろうか。
そりゃあ、周りが女ばっかしやからなぁ、上手くもなるわ、と蟒は思いながらも、そんなことはありませんよ、と薄く笑った。
宝生家は代々女系である。生まれてくるのは女ばかり、たまに男が生まれてきても、病弱なのやら早死にしてしまうやらで、当主は代々女性が務めている。蟒は、そんな女系一族に久々に生まれた男子であり、身体も一丁前に丈夫であった。婿養子の父と祖父は「珍しいこともあるもんや」とよく言っている。
しかし一族の中で男の立場が弱いというのは変わらず、次期当主と言えども、蟒が優遇されることなどほとんどあるはずもなく。男は始終、逞しい女たちに押され気味であった。
そんな環境の中で育てば、自然と女の扱いも上手くなっていくというものであり、何をすれば喜ぶか、何をすれば機嫌を損ねないか、蟒はよく知っていた。

対象的なのはこの男である。

蟒が寺の庭を箒でいそいそと掃いていると、幼馴染みの志摩八百造がブスッとした顔をしてやって来た。
「今日は彼女とデートやなかったん」
蟒が手を止めて尋ねた。
「またフラレた」
八百造は、先程張り手を食らった右頬を押さえて舌打ちした。蟒はそんな彼を見て、「またかえ」と笑った。
「志摩は女心っちゅうもんが分かっとらんのや、こんお申ーって……。何がお申や、人類はみんなお申やろ。それに女の扱いなんぞ分からんわ、俺まだ十五やし」
頭の後ろで腕を組んで、八百造はちぇっと舌打ちした。
「ほんでな、おんなじお寺の子の宝生君はお上品で優しいのに、何で志摩はそないがさつなんやって言われたわ。お前のどこが上品で優しいっちゅーねん、あいつの目ぇ節穴やで」
「さりげなく俺の悪口を言うな」
八百造が縁側に腰掛けたので、蟒も隣に座る。箒は隣に立て掛けた。
「あーあ、俺もあいつのどこが良かったんやろなあ。口うるさいしちいとも可愛らしゅうあらへんし」
「お前、さっきまで好いとった子ぉやろ」
「せやかて、嫌い言われたら俺も嫌いやし」
唇をとがらせて呟く幼馴染みを見て、蟒は思う。女なんて、そないええもんやないわ。気分屋でわがままで、平気で嘘をつく。涼しい顔をしながら、腹の中は真っ黒や。
普段からそれを目の当たりにしているせいで、蟒は女というものが苦手であった。清純そうに見える同級生だって、中身はうちの女共と変わらないと考えると、そんな女子とお付き合いする八百造が信じられなかった。
「女なんて、そないええもんやないで」
蟒が呟くと、八百造は顔をしかめた。
「何や、お前さん、男の方が好きなんか」
「好きか嫌いか言うたら、好きやなあ」
「え」
「そういう意味やないわ」
男色家と勘違いしたのか、八百造が露骨にげっという顔をして見せたのを、蟒はぴしゃりと否定した。
「せやかて、女は怖いで。俺は身をもって知っとる。男ばっかりの志摩と女ばっかりの宝生と、選べるんやったら俺は絶対志摩をとるわ」
「うちなんて男だらけでむっさいだけやで。俺は断然宝生やな」
「ほんなら入れ替わってもええよ?お前もすぐに、女なんか懲り懲りや思うようになるわ」

「ふーん……勿体無いな、お前さん結構人気あるらしいんに、しかも年上やで。ええなあ年上!俺も年上のおねーちゃんに手取り足取りスケベなこと教わりたいわあ」
普段から垂れ下がっている目尻をさらに下げ、へらへらとだらしなく笑う八百造を見て、蟒の悪戯心が少し疼いた。
「お前さん教わったやないか、スケベなこと。年上のおにーちゃんらから」
「………うっさい、ノーカウントや」
「俺ともしたなあ?」
「それもノーカウントや………!?んむっ」
蟒は八百造の胸ぐらを掴んでぐいっと引き寄せ、唇を重ねた。薄い舌を僅かに開かれた口に差し込めば、八百造の方から舌を絡めてくる。どちらのものともわからない、飲み込みきれなかった唾液が口端から溢れ、首へと流れ落ちていった。

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終わらせ方がわからない/(^O^)\





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