微妙にこれとリンク

コンコン、と所長室の扉を誰かがノックする。八百造は書類から目線を上げないまま、「入りぃ」と告げる。
「来ちゃった」と気色悪い声。
「………まぁたお前さんかい、藤本」
八百造はため息をつき、手を止めた。藤本は部屋の真ん中にある応接用のソファーに腰かけた。
「なぁ、達磨は」
「和尚なら居らへん。それにしてもお前さん、しょっちゅう来るなあ。交通費馬鹿にならんやろ」
「お前なあ、俺はコイツ持ってんのよ。鍵穴さえあれば一瞬だよ、一瞬。お前もあるだろ?」
藤本はポケットから鍵を出して見せた。
「出張所の鍵はな。東京と京都を往き来できる代物は見たことあらへん」
「まあな、俺、こう見えても聖騎士だから」
「聖騎士にしては随分暇そうやけどな。しょっちゅう和尚追っかけ回して」
「人聞き悪ぃな。用があって来てんだよ。つーか、俺上司だから、ね?もちっと気を使え」
「お前さんこそ年下やろ。大体、所長に上司なんて居らんやろ」
「いやだからさ、所長っつっても一介の上一級祓魔師だろ?俺は祓魔師の頂点、聖騎士だから」
「お前さんが聖騎士って柄かいな」
「まあな。茶とかねぇの?」
「あるで。ちょうどええし、休憩にしよか」

「どうだ、調子は」
「お陰様でぼちぼちや。デスクワークにもようやっと慣れてきた。最初は正十字に所属するなんて、って思っとったけど、毎月安定した収入が得られるいうんはほんまにありがたいわ。息子の授業料も工面してもろて、ほんまに感謝しとる」
「礼はメフィストの野郎に言うんだな。まあ、祓魔師は年中人手不足だ。祓魔に特化した明陀宗を迎え入れるのも、若手育成の為に授業料を優遇するのも、メリットがあるからやってんだろ」
八百造の淹れた緑茶を飲み、藤本はくつくつと笑った。
「そういやさ、昔、宝生の奴にワサビ入りの茶ぁ飲まされたことあったよ」
「蟒に?また何で」
「お前の首筋に歯形つけたから」
「……!」
「大層お怒りでな、仕返しだっつってキスされて首筋噛まれたよ。あいつキス上手いのな」
「蟒……」
全くあの幼馴染みは、と八百造は頭を抱えた。薄情に見えるが、存外あの男は情が深いのだ。嫉妬だなんて、自分にはこれっぽっちもそんな素振りを見せなかったくせに。
「しっかしお前ら、妻子持ちだろ?いいのかよそれ、浮気じゃねぇの?」
「女房は女房、あいつはあいつ。全くの別物や」
「わかんねぇな」
「わからなくてええ」
「女房とは七人子供作っておきながら、幼馴染みとも関係を持ってるってか。随分お盛んだな。腹上死しねえように気ぃつけろよ」
「せんわ、アホ!」
コンコン、と再び扉を誰かがノックした。
「入りぃ」
「……暢気に茶ぁ飲んでる場合なんですか、所長」
入ってきたのは、書類を抱えた蟒だった。
「お久しぶりですね、藤本さん」
「おう。相変わらずだな」
「あんたはんも」
蟒は持っていた書類をデスクに置くと、八百造の肩にぽんと手を乗せた。
「ちゃんとお仕事、してくださいね?藤本さんも、こんお人のお仕事の邪魔は許しませんえ。ただでさえ所長の判子待ちで職務が滞ってるんや、これ以上滞納したらそん時は」
蟒は続きを口にはしなかったが、その笑顔から無言の圧力を感じた八百造はぶんぶんと首を縦に振った。
「わかればよろしい。ほんなら私は仕事に戻りますので」
蟒が部屋を出ていったあと、藤本がぼそりと呟いた。
「やっぱ怖いな、あいつ」




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